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海上自衛隊入隊法(後編)








3年後・・・


がちゃ。「はいりまーす」とのぞき込むと、数人が顔をあげ「何?」「あのー、
3年前に入隊でお世話になったものですけど、当時の担当者いますかぁ・・・
あー、いたいた。どうもお久しぶりです。1任期終わって満期除隊したんで挨
拶に来ました」「おおー! 久しぶりだねぇ。1士になってからお前全然顔出
さなくなったから心配してたんだぞ。何で顔出さなくなったんだ?」「え、知
らないんですか?」「何を?」「俺、田浦地連出入り禁止になったんですよ。
1士の最初の頃に」


「聞いてないよそんなこと!何故だ?」「1士になり立ての頃にここに遊びに
来たらたまたま海自の入隊希望者がいて、私の担当だった海自の2曹に薔薇色
の自衛隊生活を説明しろって命令されれたけど、1士の時代にそんな嘘を言え
るわけないじゃないですか。本当の事を説明したら2曹がいきなり怒り出しち
ゃって、『お前は広報の邪魔だから2度とここに来るな』って田浦地連を出入
り禁止にされたんですよ」


「へぇー、全然知らなかったよ、初めて聞いた」「他の人達はもういないんで
すか?」「みんな転勤してね、当時の担当者で残っているのは陸自の俺だけ」
「そうなんだぁ、みんな転勤早いなぁ。俺は結局『護衛艦あやせ』1パイだけ
でしたよ」


「ところでなんで入隊希望者に自衛隊生活を説明出来なかったの?そんなに難
しい話じゃないだろ」「そりゃみんな下士官だからそう思うんですよ。下士官
兵は全員苦労してきてるけど、下士官は自衛隊生活が長いから自分の苦労の時
代なんか完全に忘れてるでしょ。1士じゃ苦労の真っ只中ですからそんな嘘言
えませんよ」「うーん、そうかもしれないなぁ」


「○○陸曹は自分の教育隊時代の事覚えてます?」「覚えてるよ」「でも当時
は苦労を苦労だと思わなかったでしょ。○○陸曹は高校時代に体育会系バリバ
リだったから、教育隊は高校の合宿生活の延長みたいなもんだったわけでしょ」
「そうかなぁ・・・うーんそうかもしれないなぁ、確かに教育隊は毎日しんど
かったけど、辛いと思った事は一度も無かったなぁ・・」「でしょ。俺、それ
までろくに運動したことなかったから教育隊は辛いの通り越して毎日が地獄で
したよ。だからその人その人の感じ方の違いだと思いますよ」


「で、3年間の自衛隊生活を終わって感想はどうだ? 自衛隊に感謝してる?」
「3年間、毎日しんどかったけどやっておいてよかったと思いますね。手に職
はついたし、自分が完全に生まれ変われたし、自分の心も強くなれました。だ
から3年前の入隊目的は完全に達成できました。でも感謝するのはだいぶ先だ
ろうなぁ、今はやっと満期で辞めれたのが嬉しくて嬉しくてしかたがない状態
ですね。入隊の時のコーヒーの件はまだ根に持ってるけど」


「なに? ああー、あれね、教育隊に入隊するのに、私と君とみんなで地連の
ジープに乗って行った時、君が最後にコーヒー飲ませろって言ったのに私が無
視した話だね。3年も前なのにまだ根に持ってるの」「持ってますよ。後であ
の時に厳しくされた理由を田浦地連で聞いて納得したけど、飲めなかったもの
は飲めませんでしたからね」「ははは」


「あの時つれなくした理由が、入隊式の後で班長の態度が変わるから、そのた
めの予防策とは思いませんでしたよ。」「まぁ、地連の伝統みたいなもんかな。
ジープにしておけば途中で逃げたくても逃げれない。ジープだと後ろのドアの
開け方がわからないからね」


注:74式ジープではなくJ-3ジープだったので、外から操作しないと開けれない


「開け方はわかりましたよ、途中で」「ほぉー、さすがは機関科志望だ。何故
逃げなかった?」「実はいまだにその理由がわからないんですよ。入隊式の前
に2人ぐらい逃げてるし、教育隊が終わってから1人逃げてるし、2術校が終
わって実施部隊に行ってから半年以内に2〜3人逃げてますからね。もしあの
時逃げたら一生後悔すると思ったからなのかな?と思ってるんですけどまだ理
由はわからないです。でも、あの時の田浦地連の態度のおかげで、あのジープ
の3人は1週間後に班長の態度が急変しても覚悟してたからショックはなかっ
たですよ。だけど、あの時はマジで地連にだまされたって思い込みましたね。
入隊して3ヶ月過ぎるまで田浦地連は鬼だと思ってました」


「入隊式が終わった後でショックを受けて辞めるのが多いからね、先にああや
っておけばショックを乗り越えられる」「だから今は地連に感謝してますね。
コーヒー飲めなかったのは未だに根に持ってるけど」「そのスナックでコーヒ
ー飲んだ?」「あぁ、あれスナックなんだ、○○陸曹の方が詳しいや、喫茶店
にしては変な店だったからおかしいなと思ったんですよ。自由に上陸(外出)
できるようになってからすぐに飲みました。予想通り美味くもなんともないコ
ーヒーでしたよ。でもその時には心は自衛官だったからなぁ・・・」「あの店
は何故かみんな最後のコーヒーを飲みたがるね、それで入隊前の隊員に逃げら
れた地連もあるんだよ。だから私が連れて行くときは絶対に立ち寄らないこと
にしてる」「なるほどねぇ」


「それで就職は決まった?」「ええ、なんとか。就職探すのに防衛庁まで無
理矢理連れて行かれましたよ」「君が優秀だからだよ」「えー、そうなんです
かぁ、やっと自衛隊離れれるんだし、これから好きに生きて行きたいから勝手
に外に放り出してくれればいいのに」「そうはいかないさ、満期金使い切って
から銀行強盗されたらこっちがかなわん。そんなことされたら『元自衛官銀行
強盗』って報道されるだろ」「あー、なるほど、就職の斡旋にはそういう意味
もあるんだ。一回就職してから問題起こしても自衛隊には責任はないわけです
ね」「相変わらずはっきり言うねぇ。私の立場ではノーコメントだ」



自衛隊入隊動機その1
>相手にハッタリ噛ませても最終的に喧嘩に持ち込めないできない自分の弱い
>性格が情けなく、さらにいくら努力しても止まらない心臓の動悸と体の震え
>と涙目と鼻声の生理反応がとにかく情けなく、「こりゃなんとかしないと、
>俺はこのまんま最後までこのままずっと行っちゃうぞ」と自分の性格に危機
>感を持つようになっていきます。これが海上自衛隊入隊動機その1です。


問題はこれです。大丈夫だとは思うけど、こればかりは実戦でないとわかりま
せん。既に私の持つ体の雰囲気は、喧嘩が始まる前に相手があきらめるような
雰囲気を出していましたので、街中でにらみ合いになると、最終的に一緒に酒
を飲んでいたという理解不能な展開になることが多く。自分でも回復できたの
かよくわかりません。なので暴走族キングラットの集会場に行ってみる事にし
ました。


タイマン


今までは現職自衛官ですから何か問題を起こすと自分の満期金を減らされる問
題になるわけですから、この件は退職してからと決めていました。そして再就
職した後だとこれも相手先に迷惑かけちゃうから、行ける時期は満期で辞めて
再就職するまでの10日間しかないわけです。その週の土曜日の夜の10時ぐら
いがいいだろうと判断して、自分の車を運転してキングラットの集会場まで行
きます。


立ち回りに失敗して私が袋叩きになるのは覚悟の上ですが、車までぼこぼこに
されたら困るので、集会場の近くに車を止め、逃走する時に逃げやすい位置を
計算して車を止めます。


入隊前の私はハイライトを吸っていて「お前はこんな不味いタバコじゃなくて
ショートホープかセブンスターにしろ、そうすれば俺が安心してお前にたかれ
る」と言っていたので、相手の出方次第では命を賭けると決めて、喧嘩のきっ
かけ用に自動販売機でショートホープを2箱買う。


歩いてキングラットの集会場に行くと以前は10人位だったメンバーが30人以上
に増えていて、全員ウンコ座りして輪になって道路に広がっている。通行人を
装い、ゆっくり近づき、1人1人指さして人数を数える。夜だからはっきり見
えないがだいたい30人位か、27から32人の間位だな。


背中に、「御意見無用」「南無阿弥陀仏」「天上天下唯我独尊」などと特大文
字の刺繍が入った赤や白や紺の特注の特攻服を着て、編み上げの安全靴を履き、
頭を金髪にして延びきったリーゼントにした奴らが、タバコを吸いながら唾を
道路にぺっぺと巻き散らかしている。集団のオーラから気合いの程度を見ると
普通の暴走族と同じくらいかそれより少し上な感じ、


『平均年齢は18〜19歳ぐらいだな、マイナーな町内暴走族も人が増えたなぁ、
海自で覚えた俺の気合い一発でどこまで勝負をかけれるかな? さてと、俺が
一番最初に話しかけなきゃならない相手は特攻隊長だけどどこかな?・・・お
お、いたいた、たぶんあいつだ。あいつが一番気合いがはいってそうだ。あい
つを一番最初に潰せば俺の勝ち。失敗すると俺はたぶんこの場で殺されるな』


そう思いながらずんずん進み、集団の一番真ん中に無言で入って行く。いきな
り騒然として全員が無言のまま立ち上がる。その中の一番気の強そうな目をし
ている紺の特攻服を着た奴の前で立ち止まり、無言でそいつの目をにらみつけ
ると、「誰だてめぇは!」


『こいついくつだ?18歳ぐらいか?若いなぁ、高校出たての2等海士と同じ位
か?俺も当時はこんな位の年だったんだなぁ』と思いながらドスの利いた低音
で、「あたまどこだ?」「はぁ?」「あたまはどこだって聞いてるんだよ!」
「あたまってなんだよ!」「頭は頭だ!ここは町内暴走族のキングラットの集
会場だろ!」「てめぇ!町内暴走族ってなんだ!舐めやがって、てめぇ舐めた
事ぬかしてるとこの場で袋にして殺して埋めるぞ!」


『おーおー、パターン通りのセリフだ。先輩から教わった事をそのまま言って
やがる。殺してが余計だな、相手の想像力が計算に入ってねぇ。こう言う時の
正しいセリフは、舐めたこと抜かしてると袋にして埋めるぞ。だ 』にやりと
笑ってから「お前、いくつだ?」「はあぁ?」「てめぇは何歳かって聞いてる
んだよ!」「17だ!文句あるのか!」相手の目をにらみながらゆっくりと鼻と
鼻がくっつ寸前まで位近づき、背筋を伸ばして身長を稼ぎ、相手を見下すよう
にしてから一言、「ねぇっ!」「・・・」


「おめぇらの頭を出せって言ってるんだよ!このガキ!」右横にいた気の弱そ
うなのが、「あの、頭ってヘッドの事ですか?」17歳から視線を外さず「ヘッ
ドぉ?今はあたまをヘッドって言うのか?」「そうですけど」「じゃぁそのヘ
ッドを出せ。俺は人捜しに来た。お前らのヘッドと話がある」


だんだん集団の怒りのエネルギーが上がって来る、『おー、ここで俺がタイミ
ング外すと俺は全員から袋叩きになってこの場で殺されるな』17歳の目をにら
みつけながら、息をすーっと吸い込んで、自衛隊で号令をかける時のやり方で


「おいっ!」30人の半分が凍り付き、残りの半分が理解不能できょろきょろ
してる。近所の団地から命令のこだまが帰って来る。もう一度「おいっ!」全
員が数秒凍り付き、17歳が血相変えて額に血管浮かせて「何んなんだよてめぇ
は!うるせぇな!」17歳をにらみつけながら「質問っ!」すると右横の若いの
が怯えた目をして「はいっ!」と直立不動の姿勢。


『あれ、こいつ俺にびびってるぞ、この中で一番危ないのは目の前の気の強い
17歳だが、こいつから料理すれば話の展開がはやそうだな』と判断してそっち
に視線を合わせると、視線を外された17歳がふてくされた顔をして離れた所に
移動する。『おー、これで最初の山は越えた。俺は死なずに済む、30人の気合
いの流れは俺が全部取った』


「ここは武州連合傘下の暴走族キングラットだな!」「違います!」「嘘言う
んじゃねぇ!ここは武州連合傘下の町内暴走族キングラットだな!」「いえ、
今はCRS連合のキングラットです! そこの旗に書いてあります!」「旗ぁ?
おお、まだこの旗使ってたのか、5年前だなこの旗作ったの。旗のどこに書い
てある!」


「下の方です!」よく見ると白のシーツにマジックで書いたキングラットの汚
れた旗の下の方に武州連合らしい4文字と菊のマークが見える。指でそれを差
して「あれか!」「はい!」「てめぇ!ふざけろ!そこに武州連合の出来損な
いの菊のマークが入ってるだろうが!てめえら俺に舐めたこと抜かしてるとこ
の場で殺すぞ!」


「あ!それ消し忘れです!もっと下です!」「下ぁ・・・暗くてよく見えねぇ
・・・質問っ!」「はいっ!」「お前じゃない!そっちのお前だ!お前に質問
する、質問っ!」「はいっ!」「お前いくつだ!」「20歳です!」「はたちだ
ぁ? お前、20歳になってもまだ暴走族やってるのかっ!」「すいませんっ!」


「謝ることはないっ!何故俺に謝る!お前が俺に謝る理由を今すぐこの場で俺
に説明しろっ!」「すいませんっ!」「暴走族やるなら最後まで気合い入れて
いけよ!よしっ、質問は20歳のお前にする!・・・ 20歳!返事はぁ!」「は
いっ!」「CRS連合ってなんだ!俺にわかるようにお前がちゃんと全部説明し
ろっ!」「はいっ!・・・」「どうした!もたもたしないでさっさと俺に答え
んか!てめぇ!俺の前でとろとろするんじゃねえ!」「はいっ!」


この20歳は体が震えて説明が出来なくなっているので『あちゃー、20歳なら高
校出て海士長なり立てぐらいだろう。立派に海士長になれる年なのになんなん
だこいつ、暴走族なのに気合いが全然入ってないじゃないか、民間人ってこん
なもんなのかなぁ・・・』


「他にわかるもの!いないかっ!」「はいっ!」「よし!お前答えろ!」「は
いっ!CRS連合は、スペクターとアーリー・キャッツとルートが連合して出来た
族です!2年前位にキングラットはCRS連合になりました!」この若者も体が震
えている。


「ルートって何だ?」「は?」「ルートって何だっててめぇに聞いてんだよ!」
「ルートにじゅうの事ですけど」「国道は日本中にいっぱいあるんだ!ルート
がルート20ならてめぇははっきりそう言え!中途半端にルートって略すな!」
「はいっ!」


『へぇー、こういう状況になると体が震え出すのは俺だけじゃなかったんだな』
そこらへんのを適当に指さして、「お前いくつだ!」「19歳です!」「なんだ
お前、俺が自衛隊に入ったのと同じ年じゃねぇか」「・・・」見ると硬直して
返事もできない。


「びびってんじゃねえぞこのタコっ!てめぇ、俺に袋にされて山に埋められて
えのかっ!」「はいっ!いえっ、いいえっ!」「いいえだぁ?てめぇ、俺に逆
らうのか!」「はいっ!いいえっ!」「どっちだ!おめぇは山に埋められてえ
のかって俺が聞いたんだよ!埋めて欲しいのか埋めて欲しくねぇのか返事しろ
返事!」「・・・」と、この地方のお決まりのパターンを言う。


なんか、私が海上自衛隊に入隊した年と同じ19歳を見て私の方が安心してしま
い、なにげに30人全員の表情を見回すと、『へぇー、こいつらみんなかわいい
じゃん。みんな意外とおとなしいんだなぁ、教育隊を出たばかりの2等海士の
ほうがもっとふてぶてしくて気合いが入ってるぜ。民間人の19歳ってこんなも
のなのかなぁ・・・俺も入隊前はこんなに弱かったのかなぁ・・・それとも俺
が3年やって自分が強くなったのからそう思うのかなぁ・・・』


集団の動きが止まったので来た目的のもう一つを思い出し、手首に指を当てて
脈拍を計ると、『少し早くなっているけど、それは今大声を出したぶんだから
実質は変わりなしか、目は?目は涙目になって・・・ないな。声はうわずって
ないし体の震えもない。おおー、俺の体は完璧に治ってるぜ!これで俺の3年間
の目標は達成だ!』と嬉しくなる。そして今が騒ぎを納めにかかる頃合いで、
これ以上やると集団心理の恐怖心から逆襲されて私が袋叩きになる。


と思っていると、「そーか、おい!こう言えばいいのか!」「すげー、この人
天才だぜ、『袋にして埋めるぞ』をこんなに上手く言う人は初めて見た、俺、
明日学校でみんなに試してみよう」「だよなー、『袋にされて山に埋められた
いのか?』って聞かれれば、わかっててもつい『はい』って言っちゃうよなー、
でも『はい』なら埋められるから、『はい』とは絶対返事できないもんなー、
『いいえ』って言えば『俺に逆らうのか』って言えるし、返事に詰まったら、
『どっちだ、埋めて欲しいのか埋めて欲しくないのか返事しろ』って言えば
また突っ込める」「うんうん」「だよなー、この人頭いい、天才だぜ」とか、
「そーか、相手が『ルート』って言ったら『ルートって何だ、国道は日本中に
いっぱいあるんだから略すな』って切り返せばいいのか、おもしれー、俺も今
度やってみよう」とか言い出している。


『やべ、こいつら俺の殴り込みのショックから立ち直りかけてる。こいつら思
ったより全然タフだ。こいつらの頭の中には想像力ってものが最初から無いの
か?それが自分の事だと全然思ってねぇ、ここらで話を納めないと俺がやばい』


見ると、30人の半分はびびってるが、5人位は何を言っても動じない、頃合い
だと見て、「ルート?そう言えば俺は昔ルート20のメンバーだって言われてた
な」「あの・・・ルート20の方ですか?」「昔ルート20のステッカー買っただ
けだけどな、1枚3000円もしたぞ」「えー、そりゃ高すぎっすよ先輩。俺達で
も1枚2000円っすよ」「うっせーな!てめえら俺を馬鹿だと思ってるのか!」
「いえ違います!」「俺はルート20の月5000円の会費なんか一回も払ったこと
ないぞ!」「でもルート20のステッカーを買ったんでしょ。じゃぁ先輩は俺達
の仲間っすよ!」


「あんだとコラ!2000円のステッカー1枚買っただけで俺はお前らの仲間にな
るのか!」「そうっすよ!」「このタコ!てめえらと一緒にすんな!俺はお前
らのチームの初代会長にタイマン(決闘)張りに来たんだ。わざわざ遠くから
人捜しに来たんだよ!あたま出せあたま!」「でも先輩はルート20だから俺達
の仲間っすよ!なんで仲間同士でタイマンしなきゃならないんすかっ!」「そ
うだそうだ!先輩そりゃ絶対変っすよ!」「ルート20はキングラットの仲間っ
すよ!先輩は敵じゃないっすよ!先輩は俺達の仲間っすよ!」


ルート20のステッカー話がきっかけで風向きが変わってきて、私は救いようの
ない勘違いオヤジになり、暴走族メンバー30人が私の誤解を解こうと必死の状
況に変化してムードが変わって行く。そうこうして雰囲気が変わって来た時に
見覚えのある奴が歩いて来るので私も近づき、


「おうっ!」「おう」「今はお前が頭か」「ああ、今はキングラットのヘッド
をやらさせてもらってる。ゆーじおめぇ元気か、久しぶりだなぁ」「お前、俺
の名前覚えててくれたのか、俺はお前の名前忘れちゃったよ。お前なんつった
っけ?」「ったく、てめぇは3年ぶりに俺に会ったらいきなりこれかよ、○○
だよ」「おー、そうだったなぁ・・・」


「おい頼むよ、うちの若いのいじめないでくれよな」「いじめる? この状況
は俺がこいつらをいじめてる状況なのか?」「そうだよ!」「そんなに今の奴
らは弱いのか?」「ああ、何かあるとすぐに暴走族を辞める。今の暴走族は人
を集めるのが大変なんだぜ」「だってお前、ここに10人ぐらいしかいなかった
時はこんなの毎日だったろうが!」「時代が違うんだよ時代が!」「お前!時
代ったって、あれからたったの3年だぞ!」「変わって来てるんだよ最近の暴
走族は」「・・・」「あと大声も出さないでくれ、近所迷惑になる」「・・・」


「ところでおめぇ何しに来た?」「おう、人捜しだ、3年前くらいに俺に毎日
タバコをたかっていた馬鹿がいただろう」「おお、○○だな」「あいつどこ行
った?あいつとタイマン張る気で来た、教えろ!」「暴走族引退した。6ヶ月
位前かな」「引退しただぁ?・・・・うーん・・・あいつだけは暴走族引退し
ないと思ってたが・・・じゃぁ・・・しかたがないな・・・あの馬鹿暴走族引
退して何やってる?」


「大学行った」「はぁぁぁ? だいがくぅぅぅ? あのシンナー中毒で脳細胞
溶けてる馬鹿が大学行ったってぇぇ?」「あぁ、入れる大学があったそうだ」
「だってあいつ高校中退だろうが!」「なんか大学入試を受けれる試験があっ
て、それ受けて合格してからまた試験受けて大学行ったみたいだぜ」「なんて
言う大学だ」「○○大学」「聞いたこと無い大学だな」「だろ、俺もよく知ら
ない」


私の気合いが抜け、30人は誤解が解けてほっとしたらしく「先輩はキングラッ
トの先輩なんじゃないですかぁ、先輩も人が悪いなぁ。俺、本物のヤクザもん
が殴り込みに来たと思ってマジでびびりましたよー」「そうか、似たようなも
のかもしれないぞ」「はぁ?」「元海上自衛官の殴り込みだった」「先輩!自
衛隊なんすか!かっこいー!」「お前らなぁ・・・お前らホントに調子狂う奴
らだなぁ・・・」


「なんか状況が変わったな、よし! お前らタバコ残ってるか?」「もう全部
吸って無いっす!」「お前いくつだ」「13っす」「じゅうさんだぁ!13て中1
か!中1で暴走族やってるのか!」「うっす!キングラットで気合い入れてる
っす!」「・・・よし!お前らな、俺のたばこやるから吸え」「俺達未成年な
のにいいんすか?」「年なんか関係ねぇ、吸いたいんだろ。ショッポ(シュー
トホープ)2箱余ってるからやる!みんなで吸え!」「先輩ありがとうござい
まーす!」


「全員に行き渡ったか?」「足りないっす!」「あそうか、2箱で20本だから
当然か、おいお前っ!」「はいっ!」「お前に金渡す。この金で全部タバコ買
って来てみんなで吸え!」「先輩気前いいっすねー」「うるせえ、俺におべっ
か言うな!」「先輩おべっかって何ですか?」「はぁ?言葉知らないか?わか
らなければわからないでいい、そのうち覚える・・・」


「ゆーじ、まぁ座れや、昔みたいに座って話そうぜ」「おう、おい○○、こい
つら年いくつなんだ?」「えーと一番下が今の13歳、一番上が俺で21歳、平均
すると18歳位かな」「たまげたぜぇ、今は中学1年生が暴走族やる時代かよ」
「だろ、俺の言ったとおりだろ。あれから時代は変わった」「特攻隊長は?」
「おめぇが一番最初に話しかけた奴だ」「あの17歳か」「そうだ」


「ところでおめぇは何故引退しない、何故ここにいる?」「俺もあと2ヶ月で
22歳だからそれでキング・ラット引退だ。H市警察は21歳までは大目に見てく
れる。22歳になってパクられたら(捕まったら)アウトだ、22歳だとH市警察
は手加減無しだからム所(刑務所)に行くことになる」


「それは俺もずっと前から知ってる。あの馬鹿何月生まれだ」「3月だ」「あ
の馬鹿は俺と同級じゃないのか!」「ああ、早生まれだから俺らより1級上だ」
「あの頃のメンバーはみんな同い年だったろう、あの馬鹿は自分より年下と遊
んでたのか!」「おめぇ○○が1級上だって知らなかったのか?」「知らなか
った。あの馬鹿は俺と同い年の同級だと思ってたから今日来ればぎりぎりいる
かと思ってた」「残念だったな、そういうわけだ。どうする?この先も○○を
追い込むのか?」「いや、引退したら水に流す。それが暴走族の掟だからそん
な恥になることやらねえよ」「そうしてくれ」


「じゃぁ、俺があと3ヶ月後に来てたら当時のメンバーは誰もここにいなかっ
たってことか?」「そういうことになる、あのメンバーの中で俺が一番遅生ま
れだったからな。・・・久しぶりにお前と会えて嬉しいぜぇゆーじ」「・・・」
「当時のメンバーはみんな引っ越した、残っているのは俺だけだ」「そうか、
お前は長男だから家の仕事を継ぐんだっけな」「そういうことになる」「次の
頭はあの17歳か?」「わからん。みんなで話し合って決める。たぶんそういう
ことになるだろう」


「俺もおめぇに会えて嬉しいよ、おめぇ、あの頃俺のことかばってくれたから
な、ほんのちょびっとだったけどな、あの時は感謝したぜ」「ははは、そう言
えば確かにそうだった、お前をかばったのはほんのちょびっとだったな」


「シンナー中毒のKは? あいつ陸上自衛隊に行ったろう」「全然知らねぇ、
おめぇも知ってる通りあれから全然音沙汰無しだ。おめぇと同じだ、おめぇも
いきなり消えた。自衛隊行く奴はみんなある日突然消えてそれっきりだ」「ふ
ーん・・・」「これで納得したか」


「あのよ。4年位前、俺はあの馬鹿に毎日狙われていたろ」「ああ」「何故狙
われた?」「てめぇ!マジで俺にそれ聞いてるのか!俺に舐めたこと抜かして
ると・・・」「袋にして埋めるぞ、か? 懐かしいぜそのセリフ、また聞けた」


「ったく!てめぇが何しにキングラットに殴り込みに来たかと思えば、てめぇ
はそういう理由でわざわざここに来たのか!」「そうだ、当然だろ」「あのな、
あの時俺達がみんなでおめぇを狙った理由はな、おめぇがルート20のステッカ
ー持ってたからだよ!」「それは前から知ってる、あのステッカーはシンナー
中毒のKから買った。他には?」「それだけだ!」「へ? マジ?」「マジ!」
「はぁぁぁ?たったそれだけ?」「そう、それだけ!」「意味わかんねぇぇぇ
???」


「てめぇ!マジでそれを俺に言ってんのか!俺に舐めたこと・・・」「また言
おうか?袋にして埋めるって」「けっ!」「でもよ、たったそれだけの理由で
あいつは俺を2年もつけ回したのか? 暴走族のステッカーなんかみんないっ
ぱい持ってるだろ。俺はあれしか持ってなかった。お前らいっぱい種類持って
るから俺はお前らのことがうらやましかったんだぜ」


「だからよ!おめぇは考えが甘い!そういう甘い考えの奴が気軽に暴走族のス
テッカーを買うおめぇがいけねぇ!おめぇは暴走族知ってるくせにそういう甘
い考え方しかできねえ奴がステッカー売人だったKからステッカー買ったんだ
からおめぇが全部悪い!」「???」「しかもだ!おめぇはステッカーの裏紙
はがして自分の部屋にルート20のステッカー飾ってたろ。鏡に張って」


「ああ、ルート20のデザインのセンスが気に入ってたからな。ルート20のステ
ッカーのデザインは暴走族っぽくなかったし、デザインが黒ベースに黄色のロ
ーマ字のデザインだからカッコよかったし、武州連合のステッカーはいかにも
暴走族みたいな変な菊に漢字だけのデザインだからダサかったからな。そして
俺の部屋の鏡はでかい鏡だったからそれだけだとなんか寂しかったからワンポ
イントの飾り付けでルート20のステッカーを張ってた。だけど自分の部屋だ、
他人に関係ねぇだろ。自分の部屋でルート20のステッカーの裏紙はがして自分
の鏡に張ると何かまずいのか?」








自分の部屋の鏡にワンポイント・デザインのつもりで張っていたルート20
のステッカー、赤色が17歳頃、黄色が18歳頃に張っていたステッカー
陸上自衛隊に行ったKが当時2000円で仕入れ、私が3000円で買う



このデザインのセンスがどうにも嫌いで意地でも買わなかった武州連合のステッカー
当時1枚2000円

情報ソース:五番街倶楽部 さんメアド書いて無いから連絡取れませ〜ん。4649






「そんなのはな、暴走族の世界の常識では通用しないの!」「???」「ステ
ッカーの裏紙はがして貼り付けるってことは自分がそのチームの人間だって宣
言することなの!」「それはずっと前から知ってる。俺は自分のバイクに暴走
族のステッカー張ると対抗勢力の暴走族に狙われるのが常識なのはわかってた
から自分のバイクに1枚も張ってなかったぜ」「それはバイクや車だけじゃね
えの! 自分の部屋もそうなの!」「はぁぁ???」


「おめぇがそこのアパートの自分の部屋にルート20のステッカーを飾ってるの
はここにいたみんなが知っていた。そうなると当時ルート20は武州連合の敵だ
ったから、おめぇがどう思おうと、おめえは自動的にキングラットの敵になっ
ちゃうの!」


「だけどよ、俺が暴走族の集会に参加したのはたったの4回だけだぞ。1回は
武州連合で、3回はルート20。たった4回集会に参加しただけで俺は暴走族に
会費なんか一銭も払ってねぇぞ!俺は暴走族じゃねぇ!しかも俺が集会に参加
したのは16歳の時だ!あいつが俺を狙いだしたのは俺が17歳になってからだ!
その頃の俺は集会なんか一度も行ってねえぞ!それに俺はおめぇらに暴走族扱
いされるのが嫌だからおめぇらとも距離を開けて付き合ってたんだぜ」


「おめぇ本当に暴走族わかってねえなぁ」「・・・」「あのよ、おめぇ、たっ
た3回でもルート20の集会に参加したろ」「おう」「ルート20のステッカー持
ってただろ」「おう」「それだけで充分理由になる。おめぇはあの時俺達の敵
だった」「・・・・・・」


「それとな、○○はキングラットのヘッドだったろ」「おう、初代会長だった
な」「そうなると、回りに示しを付けなきゃならねぇ。自分がヘッドだってチ
ームのメンバーに示しを付けないとキングラットがまとまらねぇ。チームがま
とまらねぇと他のチームに舐められてキングラットは潰される。現にキングラ
ットは1回潰されて武州連合からCRS連合の傘下チームになった」


「武州連合のH市支部は今何人だ? 3年前は150人ぐらいいたろう」「今は
だいぶ減って30人ぐらいかな」「CRS連合は?」「傘下チーム全部で1000人以
上いる。俺の言ってる意味わかったか?」


「俺の人間性とかに全然関係なく?」「そうだ、おめぇがどんなにいい奴でも
敵は敵」「・・・俺はあの時どうするべきだった?」「武州連合のステッカー
買うか、ルート20のステッカー隠せばよかった」「だっておめぇ、あの頃俺に
そんな事全然言わなかったじゃん」「だっておめぇ、ルート20のステッカーが
お気に入りみたいだったし、わかって飾ってると思ってたから、おめぇはいい
根性してると思ってたんだぜ・・・それに俺はあの頃おめぇに武州連合のステ
ッカー買え買えって何度もちゃんと言ったはずだぞ!」


「武州連合のステッカーのデザインはダサイから俺は意地でも買わなかったん
だが、おめぇらは武州連合のステッカーには意味があるから張っていたってこ
とか・・・」「そういうことだ、ステッカーのデザインの好き嫌いは関係ねぇ、
そいつが敵か味方かを区別するためなのが暴走族のステッカーだ。デザインで
ステッカー張るなら暴走族の対抗勢力を計算して張らないと駄目だ」「おめぇ
の部屋の鏡みたいにか?」「そうだ。それにおめぇ、俺のあのステッカー・コ
レクションは全部好きで買ったと思ってるのか?」


「あっ・・・てことはおめぇも無理矢理ステッカー売りつけられてたってこと
なのか?」「・・・」「前におめぇの部屋に遊びに行った時、おめぇの部屋に
同じステッカーが何枚もあるから変だと思っていたが、あれはそういう意味だ
ったのか?」「・・・暴走族やってりゃ長いものに巻かれないと生きて行けな
い時もある」「ヤクザか」「そうだ、意地を通せば必ず最後にヤクザが出てく
る事になる」「キングラットの初代会長もか」「・・・・」


「教えてくれ、あの頃の武州連合はどこのヤクザがバックだ?」「○○会だ、
おめぇ知らなかったのか?」「武州連合のバックにヤクザがいるのはだいぶ前
から知っていた、だがそれがどこの組なのか名前までは知らなかった。キング
ラットと武州連合の関係も先輩後輩の関係だけでヤクザが絡んでるなんて考え
もしなかった」「先輩がそのままヤクザになることもある。おめぇそこまで考
え付かなかったか?」「・・・」


「だろうと思ったぜ、じゃねぇと一人でキングラットに特攻んで(殴り込んで)
来れるわけがねぇ」「・・・てことは3年前のあの頃、俺が意地張ってあの馬
鹿潰すと、次にその上が出て来て、最後に行き着く所はヤクザもんの世界にな
ってたわけか」「そうだ、世の中には"極悪"みてぇな喧嘩専門のチームもいる
んだ、俺達みてぇな地元の弱小チームはどこかの大きいものに頼らねぇと生き
て行けねぇ、それが暴走族だ、それが世の中の現実なんだ」


「そうなるとあれか、俺が自分の部屋の鏡に張っていたのがルート20のステッ
カー1枚だけだったから俺はおめぇらの敵になって、魔除けのおまじない(み
かじめ料)の意味で武州連合のステッカーをもう1枚鏡に張っておけば俺はお
前らの仲間って事になったわけか?」「そうだ、武州連合の仲間にはならない
が、それでおめぇは中立の立場になる」


「あの頃のキングラットのメンバーが俺にステッカー買え買えってしつこく言
っても俺が絶対買わなくて、最後にみんながあきらめた後でも、おめぇだけし
つこくいつまでも俺に買えって言ってきた裏にはそういう意味があったのか?」
「ああ、おめぇがかわいそうで見ていられなかった」「・・・」


当時キングラットのメンバーが私のアパートの部屋に遊びに来ると、大きな鏡
に張ったルート20のステッカーを見て、私にステッカーを買った理由を毎回聞
き、武州連合のステッカーを鏡に当て「ここに張るとかっこいいからこれ張ろ
うぜ、ステッカー代2000円だ」と言っていたのを思い出します。私は武州連合
のステッカーのデザインがとにかく気に入らなかったのと、「お前が武州連合
のステッカー買ったら俺達は友達になってやる、お前はありがたく思え」的な
態度と、当時流行っていた暴走族のステッカーを無理矢理売りつけるカツアゲ
(恐喝)の一種と思い、断固として買うのを拒否していたわけです。


当時キングラットの初代会長が「てめぇをこれだけいじめても、おめぇはまだ
武州連合のステッカーを買う気にならねぇのか!」「絶対に嫌だ!意地でも買
わない!死んでも絶対に買わない!」と言っていたんですが、ナンバー2だっ
た彼は特にしつこく、最後には私に「ゆーじさんお願いします!武州連合のス
テッカー買って下さい!頼みます!」と頭を下げてきたんですが、私はタチの
悪い冗談だろうと思ってその時も拒否しました。しかしそれが彼なりの私への
友情の表現だったとは今の今まで考えもしませんでした。


「あのよ、俺があの時こういうふうに話持ってったら、おめぇは武州連合のス
テッカー買ったか?」「・・・いや、たぶん買わなかったろうな、俺はヤクザ
大嫌いだからな、キングラットはヤクザと関係ねぇと思ってたから俺はおめぇ
らと付き合ってた、最初からそうだとわかってりゃ俺はおめぇらには絶対近づ
かねぇよ」「だろうな、おめぇは昔からそういう奴だ」


「今初めて知ったよ、おめぇがそんなふうに俺に気を遣ってくれてたなんて全
然知らなかった、あの時わざわざ俺に気を遣ってくれてありがとうな、でもよ、
俺はガキの頃に長い間学校でいじめられててよ、それで自分が引くのに懲りて
るからあの時は死んでも引くわけには行かなかった」「そうか、でもおめぇが
昔いじめられてたなんて絶対信じられねぇぜ」「まぁな、俺にも昔はそんな時
代があってな・・・」「ふーん」


「俺はあの頃暴走族のチームの区分なんかは一切無視して、おめぇらを同い年
の気の合う友達だと思ってて、そいつが一人の人間としてどういう奴なのかっ
て判断して一人一人と付き合っていた、なのにお前らは俺がどの暴走族チーム
かってことだけで単純に色分けして俺を判断してたのか?俺達の友情はそんな
もんだったのか?」


「俺達は暴走族なんだから、暴走族じゃねぇおめぇは俺達に近づくなって俺が
ずーっと前におめぇにちゃんと言ったはずだぞ、おめぇはあの時のこと忘れた
か?」「覚えてる、覚えてるが、あの頃の俺は意味が全然わからなかった」
「そうか、じゃぁしかたがねぇ、お互い無知は怖えぇよな」「・・・」


「おめぇみてえに中途半端に俺達に近づいてきて意地を張る奴が一番いけねぇ、
俺達は堅気には手を出さねぇ、おめぇが俺達に絡まれるのが嫌だったら、おめ
ぇが俺達に近づかなければいい。おめぇが全部悪いって俺が言った意味わかっ
たか?」「・・・」


暴走族が暴走行為中に対抗勢力と遭遇した時の敵味方の識別用に必要なのがス
テッカーの役目だったのに、それがいつの間にか暴走族とは全然関係ない奴ま
で巻き込んで敵味方を識別する役目に変わり、さらにヤクザが絡んでいて、初
代会長も上部組織からプレッシャーをかけられていたからこそ、当時あれほど
しつこく私に絡んで来たと知り、あまりの馬鹿馬鹿しい理由にあきれかえって


「・・・『はぁ〜、たったそれだけの理由で2年間・・・そんなくだらない理
由で2年間も狙われて・・・いや、それで結局海上自衛隊に入ったから5年間
かぁ・・・2年間もあの馬鹿に狙われて、弱い自分が海上自衛隊に入って3年
頑張って生まれ変われば解決できると思っていた問題が、たかが1枚2000円の
武州連合のステッカー1枚買うことで全部解決できる問題だったとはなぁ・・・
それに武州連合のステッカーを無理に買わなくても単純に引っ越せばそれで全
部解決できる問題じゃん、あの頃他に友達がいなかったわけじゃなし・・・
あれがヤクザがからんだ問題だったなんて考えもしなかったなぁ・・・


なんかなぁ〜・・・世の中って相手がいるから自分一人だけ一生懸命頑張って
も解決できるわけじゃないんだなぁ〜・・・はぁ〜、俺が3年間努力した海上
自衛隊生活っていったい何だったんだろう・・・はぁ〜、俺はこれからはもっ
と世の中を現実的に見て生きることにしようっと』・・・なんかよ、なんか俺、
体中のちから抜けちゃったよ」「俺もおめぇの無知にはとことんあきれたよ」
「要するに、俺とおめぇらは住んでる世界が全然違うってことか・・・」


「そういうことだ。わかってくれたか?」「ああ、よーくわかった。タイマン
張るのも馬鹿らしいぐらいの理由だ、要するにおめぇらに近づいた俺が全部悪
かったって事だ。あの馬鹿と喧嘩する理由がなくなった」「これどうする?」
「これって?」「おめぇがいきなり特攻んできて大騒ぎになったこの始末だよ、
俺がやるのか?」「ああ、そう言う意味か、俺が始めた騒ぎだ、俺が責任持っ
て最後までけじめつける」「頼むぜ」「ああ」


キングラットの旗の下に行くと、みんなタバコを吸い始めたから散っちゃって、
直径50mぐらいの範囲にいます。私とヘッドの会話中にずっと横で話を聞いて
いた若いのがぶつぶつ言ってるので、「お前、暴走族やめるのか?」「僕、わ
かんなくなっちゃいました。暴走族がそんなふうになってるなんて初めて聞い
た」「俺も暴走族は知ってるつもりだったが、ヤクザの世界との詳しいつなが
りは初めて聞いた、一人でヤクザと喧嘩しても絶対勝てねぇ、最後には殺され
る、勝つにはヤクザになるしかねぇ、お前も真面目になるなら考えた方がいい
ぞ」「はぁ、考えてみます、特攻隊長にこの話を言わなくちゃ、あいつも知ら
ないから」「何故だ?」「同級生だからです、高校の」「親友か?」「ええ、
まぁ」「そうか、友達は大事にしろよ、後々自分の財産になる、今の俺達の関
係見てわかるだろ」「はい、よくわかります」


「おい、これからみんなに話をする。俺が号令かけたら意味がわからなくて集
まらない奴を全員集めろ」「はい」「さーてと、俺の3年間の海上自衛隊生活
最後の号令だ、最後だから気合い入れて行くかぁ・・・」と握り拳の右手を上
げてから、「全員聞けーっ!・・・基準この位置!集まれーっ!」と怒鳴り上
げると、10人ぐらいがすっ飛んできて「先輩なんすか?」とわいわいがやがや、
「ヘッドと話がついた、みんなに話があるからお前らも散らばってる全員を集
めてこい」「はーい」


御意見無用とか夜露死苦とか喧嘩上等とか恐ろしげなセリフの刺繍が入った特
注の特攻服を着て、頭を金髪に染めてポマードでリーゼントにして眉毛を線に
した男達が完全に小学校の遠足状態になってぺちゃくちゃぺちゃくちゃ・・・


「全員集まったか?」「はーい先輩」「みんなタバコ吸ったか?」「はーい」
「あのな。俺の殴り込みは俺の勘違いだった。お前らのヘッドと話が全部つい
た。お前らを騒がせた俺が悪かった、この通りだ」と頭を下げ「後先になった
が、そのタバコを俺の詫びだと思ってくれ。すまん」ともう一度頭を下げると
「わーい、誤解が解けてよかったー」とか「先輩いいっすよー気にしなくて」
とか言う奴がいる中で、特攻服着た若いのが興奮して、集まった集団の周りを
編み上げの安全靴でどかどか走りって回り出すと、それにつられて5人ぐらい
がスキップ始めて安全靴でどっかどっかどっかどっか・・・あげくに男同士で
手をつないでフォークダンスみたいにぐるぐるぐるぐるどっかどっかどっかど
っかスキップ始めるからもう見てらんない。


「先輩、勘違いって何んだったんですか?」「ん?あぁ?恥ずかしすぎて俺の
口からは言えねぇよ、後でヘッドに聞いてみな、後でヘッドが全部説明してく
れるよ」「はーい」そしたら「良かった良かった、暴走族はどのチームもみん
な仲良くしなくちゃね〜」と言うのがいて私は絶句! 私はヤクザとは男を売
る世界、暴走族とは男を見せる世界だと思っていたのに、それとは全然違う奴
らが目の前にいて『そうかぁ、これが新人類ってやつかぁ、俺には全然理解で
きねぇ・・・俺も22歳にしてとうとうオヤジの仲間入りってやつかぁ・・・』


なごやかムードになってきたので後に恨みを残さないために馬鹿話を始める。
「おい、俺からみんなに質問がある、みんな目をつぶってわかったら手をあげ
ろ」「はーい」「よし全員目をつぶれ・・・みんな目をつぶったか?」「はー
い」「質問いくぞ・・・彼女いる奴、手をあげろ! よし、目を開けていいぞ」
「あーっ!お前彼女いないってずっと言ってたじゃないかー!」「えへへー」
「いつだー!」「1週間前にできた」「お前だけずるいー!」大騒ぎになる。


みんなが落ち着いた所で、「よし次の質問だ、みんな目をつぶれ。こらお前、
ずるは駄目だ、ちゃんとみんな目をつぶれ。次の質問いくぞ・・・童貞じゃな
い奴、手をあげろ! よし、みんな目を開けていいぞ」質問の意味がわからな
くて手を上げてあわてて降ろした奴がいてまた大混乱。「じゃないって言うん
だから童貞は手をあげちゃ駄目なんだよ!」「おいっ!お前いつ初体験したん
だよ!俺はそんな話全然聞いてないぞー!」「きたねー!お前俺より先に初体
験するなんて抜け駆けだー!」「ずるいー」「お前それはずるいじゃなくて、
うらやましいの間違いだろー!」みんな大騒ぎして全員でげらげら笑って楽し
んでいる。


さっき怒鳴りつけた奴全員の目をチェックする、17歳の特攻隊長だけが私をに
らみつけている。『詫び入れたけどこいつは俺の事を許してくれないか・・・
まぁ、みんなの前で大恥かかせたからしかたがないなぁ、話は全部終わったか
らここに恨みは残したくないけど、まさかこういう展開になるとは思ってなか
ったもんなぁ・・・まぁ、それもしかたがないかぁ・・・』特攻隊長の同級生
が特攻隊長のふてくされた態度を見かねて、いきなり特攻隊長の特攻服をつか
んで集団から離れた所に引っ張って行き、2人で話しをしている。


みんなでわいわいやってるうちに、初体験した奴は童貞が初体験する時のため
に、その時の状況をみんなに説明しろと言うことになって私は蚊帳の外になる、
話が一段落したので私がヘッドに、「おい○○、騒がして悪かったな、俺のや
った騒ぎのけじめはちゃんと自分で全部取ったからな、これでいいな」「おう、
文句無しだ、みんながまとまった、お前が来る前よりまとまった・・・」


何となく無駄話をする気になって2人で話を始める「○○、おめぇ、彼女は?」
「いる、たぶん結婚することになるだろう、この間向こうの親に挨拶に行って
きた」「2人は何年付き合った?」「2年だ、ゆーじ、おめぇは?」「いる、
付き合って1年半になる、だがこの先どうなるかまだわかんねぇな・・・」
「そうか・・・」


集団で初体験した奴の報告を聞きながら童貞達が突っ込み入れてわいわい楽し
くやってるのを2人で見ていると、ヘットがぽつりと「あの頃はみんな馬鹿や
ったけど、みんなだんだん大人しくなって行くもんだな」「・・・ああ、どう
もそうみてぇだな」「・・・そうやってみんな大人になっていくものかもしれ
ねぇな・・・馬鹿やって、馬鹿やり尽くしてみんな卒業だ」「ああ、あいつら
見てるとそんな感じだ・・・俺達もこれで引退だ・・・」


「どうする? おめぇこれで帰るのか」「ああ」「じゃぁ、元気でな」「ああ、
おめぇも元気でな、いろいろありがとうよ、騒がしてすまなかったな」「ああ」








帰ろうとして歩き出すと、特攻隊長の同級生が私の所に走って来て「先輩自衛
隊なんですよね」「おう」「自衛隊に入りたい奴がいるんだけど、ちょっとい
ろいろ教えてやって下さい」「誰だ?」と見ると特攻隊長。『この同級生はわ
ざわざ俺のために気を遣ってくれたのか、じゃぁみんなの前で特攻隊長の顔を
立ててやるか・・・』


「さっきヘッドに聞いたが、お前がキングラットの特攻隊長なんだってな」
「そんなの知らないです」と特攻隊長、「なんだ?今のキングラットには特攻
隊長ってないのか?」「決めてませ〜ん」と全員、「そうか、今の暴走族は民
主的なんだな、前の暴走族は先輩が後輩にこういうことを伝えていくもんだっ
たが今は違うみたいだな、ヘッドはあと2ヶ月で22歳だから引退だろう、次は
特攻隊長のお前がヘッドだと思うぞ、さっきヘッドがそう言っていた」「・・・」


「だと思ったぜ、この中でお前が一番気合いが入ってる」「・・・」「嘘言う
なって顔してるな、お前、今の俺の話信じてないだろう、俺が殴り込みの一番
最初にお前の所に行ったのはな、この中でお前が一番気合いが入ってたからだ
よ」「何故ですか?」「知らないのか?」「わかんないっす」


「お前、それが1人で集団に殴り込みかける時の鉄則だろう」「・・・」「集
団の中の一番気合いの入ってる奴を一番最初に潰す。そうすれば全員の気合い
を飲める。1人で集団と喧嘩しても絶対勝てないだろ、手を出したらそこで終
しまいだ、俺は全員に逆襲されて殺されてる。これは昔からの殴り込みの鉄則
のはずだぞ」


「だから最初に俺だったんですか?」「そうだ、お前を一番最初に潰せたから
俺は今生きてる、お前を潰せなかったら俺は今頃死んでるよ」「なるほど」
「お前、信じないだろうけどお前が引いてくれたから俺はほっとしたんだぜ」
「そうなんですか?」「だってお前が列から離れた瞬間にみんなの流れがいき
なり変わったろ」「あ、確かに!」「な、わかったろ、あの瞬間に俺達の勝負
はついた、俺はお前がいつ引いてくれるかと思ってそれまでひやひやしてたん
だぜ」「そうだったんだ・・・」


「だからキングラットはお前の気合いで持ってる」「そうすかぁ」「タイマン
で特攻隊長が引けばチームは潰される、対抗チームに自分のチームが潰される
かどうかは特攻隊長の気合い次第だ、次に同じ事が起きたら今ので殴り込みの
パターンはわかってんだから引くなよ」「はい!」


周りの若いのが特攻隊長を冷やかし始める「へぇ〜おまえ凄いんだなー、俺全
然知らなかったよ〜」「俺そんな凄い人と同級生なんだぁ、たかが野球部の部
員だと思ってたけど、これからは特攻隊長の○○さんって言わないとなぁ〜」
17歳の特攻隊長は初めて笑顔を見せ、嬉しそうな顔をして「うっす!キングラ
ット気合い入れてるっす!」「おう、お前の気合いでキングラット気合いバッ
チリだぞ」「うーっす!」


「特攻隊長、お前、野球部なのか?」「はい野球部でピッチャーやってます」
「甲子園目指してるのか」「そんないい学校じゃないですよぉ」「それでお前
は金髪なのに髪の毛短いのか、ちゃんと毎日野球部通ってるのか?」「はい、
たまに部活サボることもあるけど・・・」「それで週末は特攻服着て暴走族や
ってるのか?」「そうです、俺変ですか?」「うーん、俺にはそんな奴マジで
絶対理解できねぇ・・・」「そうかなぁ?」


「気にすんな、たぶんお前が正しい、俺が時代遅れなだけだ、それでお前将来
自衛隊行きたいのか」「はい」「陸海空どっちだ」「陸上自衛隊です」「陸上
のなんだ」「えー、よくわかんないです」「普通科か施設か特科か戦車か偵察
か」「それなんですか?」と言うので説明すると、


「普通科です。歩兵になりたいです」と言うので、「海はいいぞー、運が良け
れば外国行ける」と言うと「船は酔うから嫌です。それにあの臭いが嫌です」
と言うので「へぇー、そんな理由もあるのか。俺は船に酔ったことないからわ
からないな」と言うと「先輩酔わないんですか?」「おう、大時化になると頭
くらくらしてやたら腹減るけど酔ったことはないな昔から」「俺、絶対無理で
す。前に親父と釣り船に乗って懲りました」


「だけどお前、陸自は毎日スコップ使って穴掘るんだぜ、60キロの土嚢担いで
50m走るんだぜ」「面白そうー」「マジ?」「マジです」「ふぅん、お前体力
あるのか」「はい」「そうか野球部じゃ体力ありそうだな、自衛隊は毎日腕立
て伏せやらされるぞ、お前大丈夫か?腕立て伏せは何回出来る?」「50回なら
楽勝ですよ」「俺と腕立て伏せしてみるか? 20回だけ、但し海上自衛隊式の
腕立て伏せだけどな」「いいっすよ」「みんなやるか?」「面白そうだからや
ります」と15人ぐらい。


「よし海上自衛隊式の腕立て伏せはな、腕を縮めて10秒そのまま、腕を伸ば
して10秒そのまま、それで1セットだ、それを20セットやるぞ」「簡単で
すよそんなの」「そうだといいな。いいか、体は一本の棒のようにするんだぞ、
腕を縮めた時は、胸と地面はぎりぎり、腕を伸ばした時は体を棒のようにまっ
すぐにするんだぞ」「はい」「よし、お前、俺の時計渡すから見てろ、[いー]
で腕を縮めて10秒そのまま、[ちぃ]で腕を伸ばして10秒そのまま、これ
で1セットだ、次は、[にぃー]で腕を縮めて10秒、[い]で腕を伸ばして
10秒、これで2セット目だ。あとはこういう感じで20まで数える、意味わ
かるか?」「はい」「じゃぁ、君が号令官だ。君の合図でみんなが始める。み
んな腕立て伏せの用意しろ・・・全員用意出来たな、ではお前、号令はじめろ」


私としても入隊前の自分の体力と、目の前の16〜20歳の体力の違いの比較をし
たかったので、上手く話を海自式腕立て伏せに持ち込んで実験してみました。
すると、5回で半分が脱落、10回で残りの半分が脱落、15回で一人を残し
て全員脱落、最後まで残ったのは特攻隊長の野球部と私だけ。私も教育隊時代
なら40回できたけど、今はすっかり鈍っちゃって25回位しか行けそうにな
い状態だけど、何とか腕立て伏せ20回終わって、特攻隊長は17回目で怪し
くなり20回目で体中をぶるぶる震わせて、最後に気合いを入れてやっとなん
とか20回達成「ほぉー、君はたいしたもんだ。初めてこれをやって全部出来
るんなら君は陸自行っても大丈夫だよ」


「先輩、息が上がってます」「おう、俺もしんどかったからな、それだけこれ
はしんどい。海上自衛隊の教育隊に入るとこの1回20セットを一日4回はや
らされる、最後の頃は、1回40セットを同じだけやらされる」「えー、俺、
海上絶対無理だぁ」「俺も同じだったよ。入ったばかりの頃はまともに20回
出来なかったぜ」「信じられないー」「そういうところだよ海上自衛隊は、男
を鍛えてくれるぜ。気が向いたら自衛隊地方連絡事務所ってのがあるから自分
で行っていろいろ聞いてみな」「はい」「じゃぁ、俺はこれで帰るからな」
「先輩タバコありがとうございましたー」「おう!」離れた所にいたヘッドに
軽く目礼する。


特攻隊長の同級生が「先輩これで帰るんですか?」「ああ、ここにはもう用が
無くなったからな、これでこことはお別れだ」「せんぱーい、また遊びに来て
くださいねぇ〜」「はぁ〜???こいつら本当に調子が狂う奴らだなぁ・・・
おうっ!キングラット!おめーら気合い入れて暴走しろよ!」「はーい!」
「特攻!」「うーっす!」「てめーらケツ持ちは気合い入れて頑張れ!逃げ遅
れてマッポ(警察)にパクられるなよ!」「うぃーっす!」


振り向かないで手だけ振り離れて行く、だいぶ離れてから振り返ると全員集ま
って密集集団で喋っている。特攻隊長の同級生が全員に事情を説明している。


『いきなり殴り込んできたあいつは何者なんだってみんなで情報交換をしてる
んだろうな・・・なんかなぁ・・・いつもみたいに話に尾鰭が付いてとんでも
ない話になっちゃうんだろうなぁ・・・勘違いした自衛官がキングラットに殴
り込みに来たって話になってここらへんの伝説になるんだろうなぁ・・・
ったく、こいつら俺に怒鳴り上げられて全員素直なよい子になっちまった。
俺達が教育隊に入って2週間目と同じだ、教育隊の班長達から怒鳴り上げられ
て全員素直なよい子に変わった時とまるっきり同じだ。人間の心ってみんなそ
ういうふうに出来てるのかなぁ・・・きっと何かそういう法則みたいのがある
んだろなぁ、俺達が教育隊で4ヶ月洗脳されて全員精強な自衛官になったみた
いに他人の心を洗脳する何かの法則みたいのが・・・・』


車に乗って走り出し考え事をしていると、なんか、目標っていざ達成してみる
と特に感動もしないものなんだな、と思うようになって来ます。確かに目標を
達成して嬉しいけど、それ以前に期待したような感動はないし、こんなものな
のかなぁ・・・と思っていると、頭は冷静なのに突然腹の底から笑いがこみ上
げてきて、ハンドルばんばん叩いても笑いが止まらず、完全に運転できなくな
ってしまったので路肩に車を止めます。


私は3年間海上自衛隊生活をしたわけですが、その入隊動機の重要な部分だっ
た暴走族キングラットの初代会長との2年間の確執が、たかが暴走族のステッ
カー1枚の問題で、意地を張らないで2000円出して武州連合のステッカー買う
か引っ越せば済む問題だったわけです。早めにそうしておけばトラブルは解決
していて私は海上自衛隊に入隊していなかったかもしれないわけです。


当時ある程度は確執の原因の想像がついていましたが、その原因は自分の性格
から来る問題がほとんどだと思い込んでいて、まさかヤクザがからんだ暴走族
のステッカーだけが確執の原因だったなんて考えもしませんから、先にそれが
わかっていればヤクザ大嫌いな私は彼らに近づきませんからトラブルも起きな
いわけで、その間抜けな原因と、それに全然気が付けなかった当時の自分の頭
の馬鹿さかげんに笑いが止まらず、あの頃それが原因で部屋に帰ってから何回
も悔し涙を流した俺はなんてアホなんだろうと思うと腹の底から笑いが出てき
て止まらず、そのうち情けなくなってきて、今度は急に目頭が熱くなって涙が
出て来るから、笑いは止まらないし涙は出てくるし、笑い泣き状態になって鼻
水まで出てきます。


やっと落ち着いたのでまた車を走らせ、15歳から22歳までを順番に振り返って、
3年間の海上自衛隊経験は最終的に自分にとってプラスだったのか、それとも
ただの無駄な回り道だったのかいろいろ考えてみました。


入隊前は母親がやっていた変な宗教を無理矢理やらされたおかげで、人格崩壊
するほどの重度な学歴的劣等感、性格的劣等感、肉体的劣等感があったのです
が、振り返るとそれまでの私は自分のあるべき目標基準をかなり高い所に置い
ていたようで、肉体的には甲子園出場クラスの高校生、脳味噌的には有名進学
校で常時上位成績を取る高校生を想定して、それと比較すると自分はなんて駄
目な奴だと強烈な劣等感を持っていたわけです。


3年間の海上自衛隊生活で他人と自分を比較することができ、全ての人間には
長所と短所があり、長所だけの人間はどこにも存在しないこと、また、短所だ
けの人間も存在しないこと、脳味噌が優秀な人がいれば肉体の優秀な人がいて、
両方持ってる人は極少数で、脳味噌が優秀な人は理論を優先するから人間的に
世間知らずが多いこと、そして私は脳味噌が優秀だけど理論優先で世間知らず
な人間になるよりは、馬鹿でもいいから世間を知っている人間になりたかった
ので、進学は私の答えにならない事を知りました。


学歴とは、人生の若い一時期に自分の自由な時間を犠牲にして集中的に勉強し、
テストで規定の成績を収め、その結果を勝ち取った人間だけが一生偉いわけで
はなく、大器晩成型の私のようなタイプの人間には私に合ったやりかたがあり、
私は私に合ったやりかたをすればいいのであって、何より重要なのは、他人の
作った基準を無理矢理自分に当てはめる考え方は間違いだと理解できました。


肉体的には海上自衛隊の教育隊で鍛えられることで驚異的に変化しました。し
かし、私は性格的に運動嫌いだから自発的にそれをすることは絶対に不可能で、
誰かに強制されないと体を鍛えないタイプなので、海上自衛隊に入って体を鍛
えたのは正解でした。


性格的には、どこにも逃げ道がない狭い船の中の社会で2年半の共同生活をす
ることで精神的に鍛えられ強くなれました。


3年間の経験でわかったのは、どんなに優秀な人でもみんな階段を一段一段順
番に登るしかなく、登った後で振り返ると相当な高さまで登っていても、登っ
ている最中は全然そうは思えないこと、だから今、目の前で自分に出来る問題
を一つ一つ順番にこなすことで、結果は必ず後からついてくるという事を自分
の体で理解できました。


要するに人生とは後で振り返った時に自分が後悔しないのが一番重要であり、
自分の命を賭けるやる気さえあれば巻き返しは必ずできる。他人がどう思おう
が人により価値観は様々なので他人の評価を気にすることなく、自分が後で振
り返って納得できる人生を自分で作っていくものだと思うようになりました。


そして寄り道の中でも得れるものはいっぱいある。他人には無駄に見える寄り
道も、自分のためには大事な道とわかりました。


こういうことを海上自衛隊の3年間の生活で学び、自分の体でそれを理解した
わけだから、海上自衛隊生活は私の人生の一時期で見れば回り道でも、一生の
スパンで見れば自分にプラスであった。無駄な経験ではなかったと結論づけら
れます。


自衛隊入隊動機その2
>それで知ったのは、「ブームの業界に就職するだけで、それに頼っていると自
>分の先行きが不安定だ」ということでした。これがきっかけで何か手に職を付
>けたいと強烈に思うようになります。これが海上自衛隊入隊動機その2です。


Aについては、3年間で自分の手に職を付けることができました。内燃という
ディーゼルエンジンを扱う職種を選択したことで、第2術科学校で機械の基礎
を学び、護衛艦に乗ってから基礎をどうやったら応用に結びつけることが出来
るのか。応用の基礎を知ることが出来ました。


自衛隊入隊動機その3
>「自分がアホでどうしようもなくてもKがいるから俺は大丈夫。俺はシンナー
>辞めると宣言したらちゃんと1回で辞めれたが、何回宣言しても絶対にシンナ
>ー辞められない俺よりアホなKがいる限り、何があろうと俺は絶対に大丈夫」
>と考えていたわけですが、そのシンナー中毒者が自分の将来を真面目に考えて
>いたという事実にショックを受けました。これが海上自衛隊入隊動機その3です。


Bについては、Kの存在を意識する必要はなくなりました。KにはKの人生が
あり、私には私の人生があります。私は他人の存在を気にする必要はなく、自
分が選んだ道を、後で自分が後悔しないように一生懸命生きて行けばいいだけ
です。


横須賀教育隊での4ヶ月間の教育で、総員42人中36番目という総合成績で教育
課程を修了したわけですが、毎日が想像以上の地獄の生活でも、それに最後ま
で付いて行けたということが自分の自信になり、自分は意外に捨てたものでは
ない、自分に気合いを入れて頑張れば出来るんだ、今まで出来なかったのは自
分が頑張らなかっただけだとわかりました。


横須賀教育隊卒業後、教育隊で初めて頑張ることを知った私は、第2術科学校
の初級機関課程(内燃)での2ヶ月半の教育で、全力をあげて勉強した結果、
ナンバー2という望外の最終成績を取り、勤務精励賞(優等賞の次)をもらう
ことが出来たので、自分は馬鹿ではなかった、自分はやれば出来るんだ、今ま
ではやらなかったから出来なかっただけだとわかりました。(優等賞を貰った
奴はその半年後に自衛隊を逃げたので実質的に私がナンバー1)


『護衛艦あやせ』に乗り組んで2年半、逃げ道のない船の人間関係の中で、世
の中には生まれついての悪党はいない(例外はある)全ての人間には長所短所
があり、人間が責任感で行動するから短所が表に出る。責任を離れれば意外に
いい人が多く、その人の短所と付き合うよりは長所と付き合う方がお互いに楽
で、その人の長所をどううまく引き出して付き合うか、人間関係の上での世渡
りのコツを学べました。



結論
18歳のあの時点では、あの選択が自分にはベストであって、他人から見てそれ
が人生の回り道であっても、それは自分とって絶対に必要な回り道だったとい
うことです。19歳と2ヶ月で海上自衛隊に入隊して3年満期で辞めた22歳2ヶ月、
私は自分が完全に生まれ変わったことを確信出来ました。




【練習員として海上自衛隊に入ろうと思ってる人】

入ったら後悔するからね。後悔した後で俺に文句言わないでくれよ。
俺はちゃんと言ったからね、入ったら必ず後悔するって。
海士長になれば楽できるけど、それまで苦労するぞ。

警告したのにそれでも入りたい人。
入ったら満期まで頑張れ! 満期まで逃げるな!
それが後で自分の自信になる。




海上自衛隊ホームページ

海上自衛隊 横須賀教育隊

海上自衛隊 第2術科学校






【注意!】

暴走族は日本で廃れつつありますが、まだまだ残っています。私の経験を読ん
で、「よし、ゆーじごときに出来るのなら俺にも出来るはずだ。近所の五月蠅
い暴走族に俺が一つ説教してやろう」と思ったあなた、マジで殺されますよ!

以前、朝日新聞の論説委員が神奈川県の片瀬江ノ島駅の駅前広場で暴走族に、
「五月蠅い」と説教したら、逆上した暴走族に殺されました。暴走族には暴走
族の論理があり、彼らの論理であれば会話が成立します。彼らの論理とはヤク
ザの論理です。しかし、社会一般で常識とされている論理で彼らに説教すると、
朝日新聞の論説委員のような結果になります。

怖いもの知らずの暴走族は野良犬の集団と同じです。最近の犬はペット化して
ますから犬の喧嘩なんか見ませんが、犬同士の喧嘩で片方の犬が力関係を見誤
ると、その犬は噛み殺されます。

相手は集団です。格闘技の達人でも本気になった集団には勝てません。まして
や一人で立ち向かう場合、一つ間違えると集団心理で袋叩きにあい、最悪の場
合は殺されます。一人の人間が集団と喧嘩する時に必要なのは、手のパンチや
口の論理はなく、その人間が持つ気合いです。

この場合の気合いとは、トラブルの流れしだいでは自分の命を捨ててもいいと
覚悟し、自分に失うものは何もないと、己を虚しくすることです。さらにヤク
ザの論理で会話が出来る能力と、相手にはったりをかませる能力が必要です。
それだけでは足りません。その暴走族が暴走族の世界でどういう力関係の位置
にいるのか、暴走族内部の力関係も知っておく必要があります。

近所の暴走族なら後で恨みを持たれて家に火をつけられることもあります。問
題があったらまず警察に相談がベストです。警察官は大きい犬です。大きい犬
に小さい犬は絶対に噛みつきません。君子危うきに近寄らずです。税金払って
るんです。気楽に警察を利用しましょう。











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私はこの後真面目になって生活するようになりましたとさ、めでたしめでたし
・・・・なわけねーだろ! これは過去の事実だからこれで本当に「めでたし
めでたし」ならそんなのは小説の世界です。映画や小説ならここで終わりです
が現実はその先が続きます。この数日後に防衛庁の就職援護室の紹介で民間の
会社に就職した私は、わずか1ヶ月後に退職届を出して辞めてしまいます。


穴見機関長、あの時わざわざ防衛庁の援護室まで連れて行ってくれて就職を世
話をしてくれたのにたったの1ヶ月で辞めちゃってすみませんでした。だけど
あの時俺何回も機関長に言ったじゃん、まともな会社で正業に就きたくないか
ら自衛隊をほっぽり出してくれって、自分一人でなんでもやっていけるから大
丈夫だって。なのに機関長が「お前は援護室で仕事選んで民間の会社で正業に
就け、正業に就かなきゃお前を絶対に辞めさせん!」って言うんだもん。機関
長に迷惑かけたくないから自衛隊をほっぽりだして欲しかったんだけど、やっ
ぱり迷惑かけちゃいました。でもあの時は本当にありがとうございました。年
食ってから機関長のしてくれた優しさが理解できました。 m(__)m




私は海上自衛隊生活を3年間経験することで、精神的、肉体的、学歴コンプレ
ックスから完全に解放され、長い長い準備期間を終え、やっと人生のスタート
ラインに立てました。この先も波瀾万丈ですが、3年間の海上自衛隊経験のお
かげで困難に正面から立ち向かい、幸せを自力で手にすることが出来ました。


幼児の頃からものみの塔というカルト宗教に忠実に従う親に無理矢理信仰を強
制させられたため、ものみの塔が子供信者を逃がさないために作った人生のレ
ールを外れた自分は、何をやっても駄目な人間で、救いようのない最低な人間
だと思うようになり、ものみの塔のおかげで人格を崩壊させられました。


おかげで長い間苦しめられたけど、3年間の海上自衛隊生活のおかげで本当の
自分は全然そんなことはなく、自分には無限の可能性があるのだと知ることが
出来ました。ものみの塔というカルト宗教のくびきから完全に縁が切れるきっ
かけをつかめたのが3年間の海上自衛隊生活の最大の収穫です(^^)


毎日給料の倍は働かされたけど、それを上回るものをくれた海自には感謝してます。








教育隊の生活についてはビデオ版「右向け左!」「右向け左!2」を見ると参
考になります。これは陸上自衛隊武山駐屯地での生活の話ですが、海上自衛隊
横須賀教育隊の生活も基本的に似たようなものです。レンタルビデオ屋にある
と思いますので、興味のある方はどうぞ。






2003/06/01




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