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海上自衛隊入隊法(前編)






私の海上自衛隊時代の経験を読んで、「僕も海上自衛隊に入りたいんですけど、
どうすればいいんですか?」と聞いてくる元2世がいたんで海上自衛隊入隊法
を書こうと思いました。


海上自衛隊入隊法と言っても、これは「私がやった入隊法」で、「あなたも同
じ事をやれば確実に入隊できる入隊法」ではないので間違えないでください。


私がやったやりかたはかなり常識はずれなやりかただったらしく。正式に入隊
が決定した後で、入隊隊員を決定する担当者に、「こういうやりかたをされて
は君を入隊させないわけにはいかない。しかし、こんなやりかたを何人にもや
れたらこっちの身がもたない。君を希望通り入隊させてやるから、このやり
方は絶対に誰にも言うな。それが君を入隊させる条件だ。」とお墨付きを貰っ
た入隊法です。(もう25年近く前の話だから時効でしょ。当時の担当者はみ
んな定年退職してるし、その人達に迷惑をかける訳じゃないからね(^^)


あー、先にはっきり言っとくけど、海上自衛隊に入隊したら必ず後悔するから
ね。海上自衛隊に入隊すると「くっそーっ!地連(自衛隊地方連絡事務所)に
騙された! 騙された俺が馬鹿だった」と全員が全員必ず思います。そのくら
い後悔します。これは私がきっぱりと保証します。


私は海上自衛隊経験をしておいて良かったと思ってますが。それは振り返った
今だから言えるセリフで、入隊するために横須賀教育隊の隊門をくぐった瞬間
から海士長になるまでの2年3ヶ月は後悔しっぱなしでした。


なのに何故海上自衛隊入隊法なんて書くかって言うと、「私と同じように入隊
してから後悔する奴を1人でも増やしてやりたくてねー、イーッヒッヒッヒ…」
じゃなくて、「入隊した後で必ず後悔するよ」って言われても入隊したい、世
渡り下手で世間がよく見えてない物好きな元2世に、海上自衛隊に入隊するた
めの具体的なコツを海自の先輩から教えてあげるのも一考かなと思ってね。
(陸自や空自は経験が無いので書きようがないから海自の話だけです)


だからこれ読んで海上自衛隊に入隊した後で、「くそーっ! 昼寝するぶたの
ゆーじに騙された!」なんて言わないでよ。「入隊すると必ず後悔するぞ」っ
て警告したのに海上自衛隊に入隊したあんたが馬鹿です(きっぱり!)


なんか、聞くところによると最近は入隊する以前に試験や面接の段階で落ちち
ゃう人がやたら多くて、入った人間からすれば「何故落ちる?」って思うんで
すが、落ちた人にはそれなりの理由があるんだろうけど、身体的にOKで脳味
噌的にOKなのに、自分よりアホな奴が入隊して自分が落ちちゃった人は、何
故自分が落とされたのか、落ちた理由は永遠にわからないんじゃないのかな?
(自衛隊とは、「やる気と気合いと根性」の世界ですから、それが先にわかっ
てたらもしかして入れたかもね)


私の時は、海上自衛隊「練習員課程」の受験者が、神奈川県で約18人。合格者
が3人でした。(競争倍率6倍) 受験者の中で中卒は私1人だけで残りは全員
高卒と短大卒で、合格者の中には国士舘高校出身で体育会系バリバリの人もい
ましたので、身体的能力と脳味噌的能力で考えれば私は間違いなく18人目で、
絶対に海上自衛隊に入れないはずなのに、何故か3番目で入隊できました。


当時は理解不能でも後から振り返れば入隊出来た理由はちゃんとあるわけで、
当時の自分としては無意識でやったことでしたが、合格するためのポイントポ
イントを全部突いていたから合格できたわけです。そんな当時の受験の流れを
書けば、世渡り下手に世渡りのコツをつかめてもらえるんじゃないかな?って
思ったので書く気になりました。


このやりかたはたぶん今でも通用すると思います。何故ならこんなやりかたで
入隊しようとする奴はまずいないからです。そのくらいユニークなやりかただ
ったと思います。(でもやりかたを知った全員が出来るとも思えないなぁ)





自衛隊に入隊するためには、町内会の看板に「きみも自衛隊に入ろう!」とい
うポスターが貼られていて、そこに葉書が刺さっていますから、それを1枚引
っこ抜いて住所氏名を書いてポストに入れると、数日もすれば「自衛隊地方連
絡事務所」という所から、広報官という現職自衛官が私服を着てあなたのおう
ちを訪ねてきます。


この人達を通称「地連のおっさん」と言います。


あなたのおうちを訪ねてきた地連のおっさんが、パンフレットを見せながら、
「自衛隊とは将来性と安定性がある職場で、立場は特別職国家公務員であり、
服は全部支給してくれて3食無料でおやつまでついて、車の免許は取れるし資
格も取れる。休暇はちゃんとあるし貯金も出来るし学校にも通える、先輩達は
面倒見が良く、手取足取り仕事を教えてくれるから心配することは何もない」
と嘘八百を言います。(事実なので嘘ではないが嘘八百。理由は入隊すればわかる)


そして話がたけなわになった頃に地連のおっさんが出す「仮入隊申込書」みた
いな書類にサインして判子を押すと、たぶんあなたは間違いなく試験で落ちま
す(笑)


もちろん100%全員が落ちるわけではないですよ。世の中に優秀な人はいっ
ぱいいますから優秀な人はそれで入れるでしょう、私がそれだと落ちると言う
のは、それまでスポーツをしたことないから身体的能力がなく、勉強が嫌いだ
ったから脳味噌の程度も知れている、当時の私のような低学歴の人間が、高い
競争率を勝ち抜いて、練習員として海上自衛隊に入隊する場合の事を言ってい
ます。


入隊コースは陸海空でいろいろ種類があって複雑だからおおざっぱに言うと、
2等兵から始まる一般隊員コースと、下士官になるための曹候補生コースと、
幹部自衛官になるための幹部候補生コースがあります。あなたが高卒で就職を
目的に自衛隊に入隊するなら曹候補生コース、大卒で就職を目的にするなら幹
部候補生コースがベストです。大学受験で防衛大学を目指すならその方が出世
の早道です。そういう変人は私には理解不能だから勝手に就職してください。


私が対象にしているのは、2等海士として入隊して3年で満期を迎えて100万
円近い退職金をがっぽりもらって、なおかつ自衛隊に新しい職場を斡旋しても
らって、退職してから民間企業に勤める一般隊員コース「練習員課程」の話で
す。要するに、昔の私と同じように、自分を鍛え直す目的で海上自衛隊に入ろ
うと思っている人限定で書いています。


あなたが高卒の場合、2等海士から始める一般隊員コース「練習員課程」を希
望しても地連のおっさんは下士官になるための曹候補生コース「海曹候補士」
を勧めると思います。特に勉強の成績の良い人は「一般隊員の募集枠はもうい
っぱいだから曹候補生のほうが合格の早道だろうね」などと言うかもしれませ
ん。しかしそれは嘘です。一般隊員の募集枠は一杯なんじゃなくて一杯にする
ものなんです。


平成12年度 海上自衛隊応募倍率(括弧は女子)
一般海曹候補学生14.0倍(32.3倍)・教育終了時3等海曹,定年まで
   海曹候補士 11.9倍(37.1倍)・教育終了時2等海士,満期金なし,定年まで
   練習員課程 3.6倍 (8.7倍)・教育終了時2等海士,3年目に97万円の満期金



例えばある県の海上自衛隊の入隊枠が2人だったとします。自衛隊には目標倍
率というのがありますので、入隊枠が2人でも地連のおっさんは規定の倍率に
達するように20〜30人くらい集めるのが仕事です。(それでも全国平均にする
と3.5倍程度にしかならない) 2人の枠に2人しか集めなかった場合はカスが
入隊する可能性が増えます。カスは自衛隊の戦力を下げる元ですからカスは早
めに排除しなくてはなりません。そのためには入隊希望者をとにかく増やして
競争倍率を上げることでカスを事前に排除できます。


世の中は高卒や大卒だけじゃありません。中卒もいるし高校中退もいます。入
隊希望者の競争率を上げるためには、大卒は幹部候補生コースへ、高卒は曹候
補生コースへ、中卒と高校中退は一般隊員コースに振り分けることで競争率を
上げる事ができます。そうすることによって自衛隊側は質の高い人材を得れる
わけです。


地連のおっさんの仕事は「人さらい」です。地連のおっさんはとにかく入隊希
望者の頭数をノルマぶん集めるのが仕事です。あなたが地連のおっさんにとっ
ての「頭数の1人」になれば、あなたがよほど優秀な人材でないかぎり入隊試
験で落ちる可能性が大きくなります。どうしても自衛隊に入隊したければ地連
のおっさんにとっての「頭数の1人」にならないように、とことん上手く立ち
回るのが入隊を確実にする道になります。


仮に上手く入隊出来たとして、教育隊での訓練期間中にあなたが逃げた場合は
地連のおっさんの責任です。教育隊を卒業して実施部隊に行った後も地連のお
っさんの責任は続きます。つまり入隊して1年までの間にあなたが自衛隊で何
か問題を起こせば、それはあなたを入隊させた地連のおっさんの責任です。そ
れが海上自衛隊です。逆に言えば、地連のおっさんがあなたの保証人になって
もよいと信頼させれることが出来れば、あなたが海上自衛隊に入隊出来る可能
性が高くなります。


私が入隊してから25年近く経っていますが、海上自衛隊関係の個人サイトで
描かれる艦船勤務での日常生活を読むと、私の時となーんも変わってません。
話を現代に合わせるのは自分で修正してください。

詳細は地連のおっさんに聞けばわかります。但し、同じ自衛隊でも陸海空は世
界が全然違うから、海自の地連のおっさんはわかっても、陸自と空自の地連の
おっさんに聞いても理解不能かも?



何故中卒で体力無しで脳味噌の程度も知れていた私が「人さらい」の地連のお
っさんの「頭数の1人」にならずに、競争倍率6倍、受験者18人中,合格者3名
の中の1人にまぎれ込めこめたか、それは当時こういうふうに立ち回ったから
です。

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海上自衛隊公式サイトより

「練習員課程」2等海士(男子)

応募資格:日本国籍を有し、採用予定日現在、18歳以上27歳未満の男子
受付期間:年間を通じて行っています。
試験期日:(1) 試験期日:受付時にお知らせします。
     (2) 試験種目:筆記試験(国語、数学、社会、作文)
       口述試験、適性検査、身体検査
合格発表:受験日からおおむね1か月後以降
入隊予定:採用予定通知書でお知らせします
身体検査の合格基準:
 身長:155cm以上のもの
 胸囲・体重:身長と均衡を保っているもの(合格基準表参照)
 肺活量:3,000cc以上のもの
 視力:両側とも裸眼視力が0.6以上又は裸眼視力が0.1以上で矯正視力が
    0.8以上であるもの
 色覚:色盲又は強度の色弱でないもの
 聴力:正常なもの
 歯:多数のウ歯又は欠損歯のないもの(治療を完了したものを除く)
 その他:身体健全で感染症、慢性疾患、四肢関節等の異常のないもの

注:私の時代の応募資格は18歳以上24歳未満の男子でした。(私は19歳で入隊)
  合格して無事入隊しても、入隊式までに、入れ墨,性病,(女性は妊娠)が
  ばれると自衛隊から叩き出されます。さらに、年を食ってから入隊すると
  15歳から自衛官をやってきた19歳の下士官に命令されることになります。


階級:入隊→2等海士→1等海士(ここまで2年)→海士長(1年)→1任期満了(3年)

教育課程
・教育隊(15週)《職域の決定》→ 要員別教育(約1週)→ 部隊勤務 → 術科学校で
 海士課程(10〜48週)[1士] → 部隊勤務 [海士長]→1任期満了(97万円)


注:私がいた時代の1任期までの教育課程
・教育隊(約4ヶ月)《職域の決定》→ 術科学校で初級海士課程(約2ヶ月半)
 → 部隊勤務 [1士,海士長]→1任期満了(48万円)

注:私より少し前の時代の1任期までの教育課程
・教育隊(約6ヶ月)→ 部隊勤務《職域の決定》[1士]→ 選抜者のみ術科学校
 で普通科課程(約4ヶ月)→ 部隊勤務 [海士長]→1任期満了(42万円)




将来の進路
○任期満了・退職 (陸上自衛隊2年、海上自衛隊3年、航空自衛隊3年)
有利な条件で就職できるように就職援護制度があり、個人のニーズにあった就
職先を斡旋している。1任期満了後継続して任用された者は、就職に有利な技
能訓練が受けられる。(大型特殊自動車、クレーン運転士、情報処理者、簿記
検定など)
 
○継続勤務
希望者は選考に基づき、2年を任期として継続任用される道が開かれている。

○特別退職手当 (満期金)
任期満了すると、1任期(陸上,2年)で約62万円、1任期(海上,航空,3年)で
約97万円、2任期で約135〜142万円が支給される(H12.4.1現在)

注:私の時は満期金が48万円だったんだけど今は97万円かぁ・・・・

●駆け足や泳ぐのが苦手な人は、どんな教育を受けるの?
素養教育では、海上自衛官として必要な知識技能以外に心と体を鍛えます。そ
の中で持久走(駆け足)と水泳は基礎的な体力造りの方法として重視されてい
ますが、みんな初めて自衛隊に入る人ばかりですから、段階的に教育します。
もし、泳げない人がいれば、泳げない人のグループを作って、訓練し、全員が
泳げるようになります。駆け足も同じです。

注:「兵士に行動を強制させる事はできない。しかし行動しておけばよかった
   と後悔させることはできる」という諺があります。それが連帯責任!

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話を17歳頃から始めます。


当時は水商売をやってましたから、喫茶店のボーイとかキャバレーのボーイや
堅気の仕事を転々としていたわけです。特に人生に目標があるわけでもなく、
JWの1975年10月のハルマゲドン予言(17歳と2ヶ月)で間違いなく死ぬと思
ってましたから将来に夢を持てるはずもなく、その日さえ良ければいいと思っ
て刹那的に生きていました。


海上自衛隊入隊動機その1


当時、私の住んでいるアパートのすぐ横が公園で、その一角が町内暴走族のた
まり場になっていたわけですが、毎夜10人ぐらい集まってシンナーやったり
花火やったりして騒いでいました。そのメンバーの中の一人がたまたま私の幼
稚園時代の同級生で偶然再会したKでした。私が夜の12時仕事から帰ってき
た時にそいつと顔を合わせると「おう」って声をかける程度の関係だったんで
すが、そのうち他の暴走族メンバーとお喋りするような関係になり、武州連合
傘下の暴走族「キングラット」と顔見知りの関係になって行きます。

注:キングラットは当時の三多摩の最大派閥「武州連合」の傘下の弱小チームで、
  対抗派閥の「CRS連合」(スペクター,アーリーキャッツ,ルート20)が出来る前の
  時代の話。当時の三多摩の暴走族は和気藹々なムードで,「喧嘩上等」で特攻ん
  で行くのは東京,湘南に遠征した時のみ。



「武州連合」や「ルート20」の集会に参加して暴走したことも何回かありまし
たが、たまたま「ルート20」のステッカーのデザインのセンスが気に入って、
1枚3000円で買ったのがきっかけで、私は暴走族「ルート20」のメンバーとい
うことにされてました。


暴走族の集会に参加しても私は自分の足を持っていないので車の後席やバイク
のケツ乗りばかりですからたいして楽しめず、その上もたもたしてると置いて
きぼりにされてしまい、金が無いからアパートまで何十キロも歩いて帰るなん
てことを数回経験したのと、自分の性格的に集団でパレードのよう走るのがつ
まらないので暴走族の集会には参加しなくなります。


H市の暴走族「キングラット」は三多摩の暴走族「武州連合」の傘下チームで
すから国道20号線沿いの暴走族「ルート20」は敵なわけです。当時の私はそう
いう暴走族同士の派閥のごちゃごちゃを全然知りませんから、キングラットの
メンバーKと立ち話してると必ず数人が私の事を邪険に扱うわけです。


たいていは1時間位幼なじみと無駄話をしてると、シンナーで目がうつろにな
った奴が「ここは武州連合傘下のキングラットだぞ。ルート20は敵なんだから
お前は帰れ!」と言い出すので、それが出だすともう話は終わりだなと判断し
て、「ああ、わかったよ帰るよ、帰ればいいんだろ、うるせーな!」「何だと
この野郎!」「お前が帰れって言うから素直に帰るんだよ。文句ねーだろ!」
と30秒ぐらいにらみ合いが続き「てめーは生意気な野郎だから気にいらねぇ、
てめえは2度とここに来るな!」「ほいほい、わかったわかった、言いたい放
題言ってろ、この馬鹿」と50M位離れた自分のアパートに帰るわけです。


私のことをとことん嫌っていたのはそいつだけでしたから、次の時に私が仕事
から帰って来た時にそいつがいないとキングラットのメンバー達が、「ここに
座って喋って行きなよ」と誘ってくれるんですが、そいつが来るとまた「てめ
ぇまた来たのか!今すぐ帰れ!」と言い出すわけで、そいつと口喧嘩するのは
毎週土曜日のお約束のような日課になっていました。


逃げるのは簡単なんですが、小学校5年生から中学卒業するまでいじめられ続
けた原因が目の前の問題から逃げたからなので、とにかく死んでもいいから問
題から逃げるの大嫌いになり、また懲りずに土曜日になるとキングラットのた
まり場に行くわけです。(我ながらアホだと思ってました)


今なら笑ってられますが当時はかなり頭に来ていて、明らかに相手は喧嘩を売
ってるのに買えない自分の性格が情けなくて腹立たしかったんですが、それで
もそこら辺は「シンナーで脳細胞が溶けてる馬鹿に喧嘩売ってもしかたがない」
って自分で納得できるわけです。


しかし問題は私の体の生理反応で、にらみ合いでだけで心臓の動悸が激しくな
り、体にいきなり震えが来て、怒鳴り合うといきなり涙目になるから鼻声にな
ってしまう自分の体の反応がとことん情けなくて、夜ですから回りにばれない
けれど、もし昼間なら全員の笑いものになってしまうのは明かなわけで、この
自分の体の正直な反応は10代の頃の悩みの種でした。


そのうちそいつは私のタバコをたかりだして「タバコくれたらお前がここで喋
っていても許す」とか言うので、特に気にもせず「ほい」ってタバコを出した
のがきっかけで、毎回私にたかるようになり、学生に社会人がカツアゲされる
ような状況になって行きます。小中学生時代にいじめられた経験を持つ私はそ
ういう状況は許せないわけで、私をパシリにしようとしても断固として拒否す
るので、またにらみ合いが始まるという状況が繰り返されました。


そうなるとまた心臓がバクバク言い出して体に震えが来て涙目になって鼻声に
なっちゃうので、部屋に帰ってから自分に対して「くっそー!」と怒り狂い、
相手にハッタリ噛ませても最終的に喧嘩に持ち込めないできない自分の弱い
性格が情けなく、さらにいくら努力しても止まらない心臓の動悸と体の震え
と涙目と鼻声の生理反応がとにかく情けなく、「こりゃなんとかしないと、
俺はこのまんま最後までこのままずっと行っちゃうぞ」と自分の性格に危機
感を持つようになっていきます。これが海上自衛隊入隊動機その1です。


海上自衛隊入隊動機その2


18歳頃はキャバレーのボーイをやってたんですが、キャバレーでは社交さん
(ホステス)が手をあげてライターの火を付けるとお客さんの注文の合図です。
ホステスら火がつけたのを見つけたら近くのボーイがすっ飛んでいって、片膝
を付いて注文を聞くわけですが、お客さんは気まぐれですからすぐにボーイが
注文を取りに行かないと「気が変わった」と言って注文をキャンセルします。
ホステスの収入は歩合ですからボーイが注文を受けてくれないとホステスが予
定した収入を逃がすわけで損してしまうわけです。


私のいた店は登録ホステスが100人ぐらいいるグランド・キャバレーでしたの
で、常時60人位のホステスがいるわけですが、ボーイは6人位しかいないため
全員に手が回らず、注文を逃がしたホステスが後でボーイに文句を言って来る
んですが、ボーイ側としては手が足りないのは経営者の責任だと思ってました
から、いろいろ言い返したりしていました。


ボーイに注文を早く取って欲しいからボーイと寝るホステスもいるわけで、そ
ういうことを防ぐために水商売の世界には「商品には手を出すな」という掟が
あります。水商売の掟ではボーイとホステスが寝たのがばれたらボーイは即刻
解雇となります。


そんなんで私も首になりまして(笑)ナンバー2に手を出したのが経営者にば
れたのと、ナンバー32に手を出したら亭主がヤクザで、女が事の次第を全部
亭主に喋っちゃうから亭主から追い込みをかけられまして、「こりゃ水商売の
世界は潮時かも」と思って堅気の商売に切り替えます。(18歳の時)


たまたま新聞広告でシロアリ退治のアルバイト募集があったので応募すると、
これが笑っちゃうくらい楽な商売で、朝10時に出勤して夕方4時に仕事終わり
で給料はばっちりという最高な環境でした。16時出勤,24時退社(8時間勤務)
のキャバレーのボーイで手取り19万5千円だったんですが、シロアリ退治は、
5時間勤務で18万2千円。健康的な昼間の仕事でこれだけくれる会社はまずあ
りませんから給料的には大満足でした。


当時のシロアリ退治のコストは木材と土壌用の薬剤が卸値3万円、1軒あたり
の請求金額は駆除の場合、作業員2名で約3時間のシロアリ駆除作業で請求書
は30〜40万円。予防の場合は作業員1名で約2時間半の新築戸建ての予防作業
で25〜30万円。当時の三多摩地方はシロアリ駆除ブームで会社は儲かって儲
かって笑いが止まらない状況でした。


作業をする時は車で出かけて出先で機械ごと放り出され、つなぎの作業服に防
毒マスクと布で覆面をして床下に潜り込んで作業して、時間になると車で回収
されるわけですが、駆除作業は築7年〜13年程度の新しい家がほとんどですか
ら床下は清潔そのもので、駆除作業中にシロアリなんか1匹も見たことがなく、
いるのはコオロギだけですから特に不潔な環境の仕事でもないのですが、客は
大変な商売と思ってくれるらしく請求書の支払いもばっちりで、そのおかげで
バイト代もばっちり出してくれるし、こりゃここに永久就職してもいいなと思
える程でし た。


バイト3ヶ月目で社長に、「君はバイトじゃなくて正社員になれ。正社員にな
ったら自動車の免許を取らせてやる。君のアパート代も会社の経費で全部落と
してやる」って言われるようになります。いろいろ転職してやっといい仕事が
見つかったわけですが、どうも・・・なんか不満なんですよ。


というのは当時はシロアリ駆除ブームの最後だったらしく、新築の家は全て
シロアリ予防をしますので、駆除の仕事が来るのは新しくても築7年の家。そ
れより新しい家の駆除依頼は1軒もありません。ということはこのまま正社員
として務めると先行き不安定になるわけです。その証拠に、バイトを始めたば
かりの頃はシロアリ駆除専門だったのに、いつのまにか新築のシロアリ予防作
業にまわされ、それもだんだん仕事が減ってきて、桜の木に付く毛虫(アメリ
カ・シロヒトリ)退治とか、ネズミ駆除や蚊の駆除作業が増えてきて、最後の
頃には「今日は仕事がないから帰っていいよ」と言われる始末でした。(業界
大手のイカリ消毒や三共消毒に仕事を奪われていたと知ったのはだいぶ後の話)


それで知ったのは、「ブームの業界に就職するだけで、それに頼っていると自
分の先行きが不安定だ」ということでした。これがきっかけで何か手に職を付
けたいと強烈に思うようになります。これが海上自衛隊入隊動機その2です。


海上自衛隊入隊動機その3


18歳位になると、自分の知り合いが陸上自衛隊に入り出します。顔見知りの友
人が突然蒸発してしまい、「あいつ最近見ないけどどうした?」と聞くと「な
んかあいつ自衛隊に入ったらしいよ。横須賀の武山とか言うところにいるらし
いぜ」という返事が返って来るようになります。その頃は別に何とも思わない
ので「ふーん、あいついったい何考えてるんだろうね、好きこのんで自衛隊に
行くなんて只の馬鹿じゃん」という程度の認識しか無かったのですが、私にと
って大ショックの事件が起きます。


それは幼稚園時代に、私が月組と相手が星組だったという関係で、暴走族キン
グラットで知り合いになり、シンナーを絶対に辞められないシンナー中毒者だ
から脳細胞が完全に溶解していて、幼稚園時代から向上心というものを一切持
った事がない、救いようもないバカタレだったKが突然陸上自衛隊に入隊した
ことでした。


私はびっくりしてKの親元を尋ね、Kが何故自衛隊に入隊したのかその入隊動
機を聞きに行きました。すると親御さんの答えは「祖父に言われたのがきっか
けで、自分の将来を考えて陸上自衛隊に入隊すると言っていた」という答えを
聞いてまた大ショックでした。


当時の私は「自分がアホでどうしようもなくてもKがいるから俺は大丈夫。俺
はシンナー辞めると宣言したらちゃんと1回で辞めれたが、何回宣言しても絶
対にシンナー辞められない俺よりアホなKがいる限り、何があろうと俺は絶対
に大丈夫」と考えていたわけですが、そのシンナー中毒者が自分の将来を真面
目に考えていたという事実にショックを受けました。これが海上自衛隊入隊動
機その3です。


ちなみにKは、「エホバの証人の子供達HP」の秋本さんの顔と瓜二つです。
初めて秋本さんに会った時に「お前、Kか?こんな所で何をやってるんだ?」
と声をかけようと思ったくらいです。Kと秋本さんは10歳近く違うから完全
に他人の空似なんですが、秋本さんの髪の毛をオキシドールで完全に脱色し
て金髪にして、ポマードで70年代暴走族のヘアスタイル(横浜銀蠅のような
延びきったリーゼント)にすればKと瓜二つになります。


面接必勝法1


それまでは「自衛隊なんてのは憲法違反の団体だ」ぐらいの認識しかなかった
のですが、Kの入隊をきっかけに急に自衛隊に興味を持ち出し、それまで暴走
族とかで一緒に遊んでいて、ある日突然蒸発して、しばらく経つと舞い戻って
きた陸上自衛官に話を聞いたんですが、聞くといいこといろいろと言うわけで
す。

そいつは普通科の2等陸士でしたが、自分のやってる普通科(歩兵部隊)の事
しか知らなくて、同じ駐屯地の施設科(工兵部隊)や特科(砲兵部隊)や戦車
部隊やオートバイの偵察部隊が何をやっているのか、同じ駐屯地なのに全然知
らないわけです。「入隊すると最初はしんどいけどすぐ慣れるから大丈夫だぜ。
お前も自衛隊入れ。自衛隊は自分を鍛えられるしいい所だぞ」って言うんだけ
ど「そこ、楽しい所か?」って聞くと「・・・」「仕事が終わったら毎日外に
出れるのか?」「一応そうなってる」「そう言うけど、あんたは2週間に1回、
それも平日の夜しか外に出てこれないじゃん」「当直があるからな」「じゃぁ、
毎日出れないんじゃん」「・・・」


「まぁ、入ればわかるよ。とにかくお前が自衛隊に入るのなら一つだけ頼みが
ある。」「なんだよ」「地連に行ったら俺からの紹介だと言ってくれ」「なん
だそれ?」「実はな、俺の紹介でお前が自衛隊に入ると俺の点数が上がる。そ
うすると俺が陸士長に昇進するのが早くなる。どうせ自衛隊に入るのなら俺の
ために骨を折ってくれないか」「ばかやろー!誰がてめえのために俺が自衛隊
に入らなきゃならないんだよ!ふざけんな!」(自衛官が民間人を地連に紹介
して入隊成功させると「5級賞詩」という勲章のようなものをもらえると聞い
たのはずっと後の話)


どうもそいつの話を聞いていると話がうさんくさいし、大事な事になると防衛
秘密だとか言って教えてくれないので「なんか話を聞いてると、俺が自衛隊に
入って苦労したから、お前も自衛隊に入って苦労しろって聞こえるぜ」って事
になって結局参考になりませんでした。


てことで隊員に直接話を聞いてもらちがあかないので自衛隊の解説本を買い出
すようになります。ところが当時は暴露本なんかありませんからきれい事しか
書いていないわけです。見てるとなんか海上自衛隊の制服が格好良さそうなの
で「俺も海上自衛隊入ってみようかなぁ・・・陸上はみんな普通科か施設に入
れさせられるそうだし、俺は土木作業嫌いだから施設科は嫌だし、普通科に入
って銃剣使った戦闘訓練受けても戦争になったら「ちょっと待った!」って言
いそうだから敵に刺し殺されそうだし、毎日スコップで穴掘って塹壕掘るの嫌
だし、海上ならそういうことないみたいだから海上のほうが良さそうだなぁ。


出来れば将来バイクとか車をいじる仕事がしたいけど、現状じゃ働きながら
職業訓練校に通うのは自分の金遣いが荒いから絶対無理だし、海上自衛隊の
機関科に行けば機械の扱い方を教えてくれるだろうから、辞めた後に自分に
手に職を付けれそうだし、体も心も鍛えるって言うから頑張れば自分の性格
を変えれるかなぁ・・・」と漠然と考えるようになって行きます。


当時は我慢という言葉を知らない時期でしたし、自分に逃げるのは絶対に嫌で
したし、元々がせっかちな性格ですから、何かやりたいと思ったら何がなんで
もやらないと気が済まない時期でした。最初は「俺も自衛隊に入ってみようか
なぁ・・・」だったんですが「面白そうだから入隊してみたい!」に気が変わ
るまで長くはかかりませんでした。「とりあえず当たって砕けろ式で、自衛隊
地方連絡事務所とやらに行ってみて担当者に話を聞いて、それから話を決めれ
ばいいや、もし変な職業ならそれであきらめばいい話だけど、聞かないと後で
後悔しそうだから行ってみよう」と決め、三多摩地区にある地連事務所、自衛
隊H地方連絡事務所を尋ねて行きます。


「こんにちは〜」とドアを開けて中に入ってみると人影がないので。昼飯時だ
ったから誰もいないのかなと、古いマネキン人形に制服を着せたのやら、自衛
隊を解説したパネルやらあるので、なんか古そうな市役所みたいな部屋だなと
思ってそれを勝手に見ていると広報官が帰ってきて、「どなたさんですか?」
と聞くので「自衛隊に興味があるんで話を聞きたいと思ってきたんですけど」
「おーそうかそうか、それはどうも、あなた高校生?」「違います、働いてま
す」「何歳なの?」「18歳です」「うんうん、陸上自衛隊希望ですね」「い
え、海上自衛隊の話を聞きたいんですけど・・・」「え、海上かぁ・・・海上
海上、うーん困ったな、今資料がないや。古い資料ならあるんだけど最新のは
今無いんだよね」「あ、古いのでもいいですからもらえますか、本屋で本買っ
て読んでもよくわからないんですよ」「本のほうがよっぽど詳しいよ、ほら、
こんな簡単な事しか書いてないでしょ」「あ、ほんとだ・・・じゃぁ海上自衛
隊の話を聞かせてもらえます?」「うーん、この地連はね、地連ってのはこの
地方連絡事務所の事だけどさ、陸上と航空の広報官しかいなくて海上の広報官
はいないんだよね。海上はわからないなぁ」「えー、そうなんですかぁ・・・
じゃぁ帰ろうかなぁ・・・」「まぁまぁそう言わずに、今お茶入れるからそこ
座って。あなたの話を聞かせてよ」「はぁ、いいですけど・・・」と言う感じ
で陸自の広報官と話していると空自の広報官も帰ってきて、3人でいろいろ話
していたわけです。


会話してわかったことは、要約すると『この2人はここに転勤して来てから間
がないので、海上自衛隊の「練習員課程」の受験希望者を扱った事がないから
詳しい事情をまるでわかってない』という事です。そして『受験者の合格判定
をするのは、各県単位で地連の偉い人達がどこかで集まって決めるらしい』と
いうことでした。


私は15歳から転職を繰り返してきましたので、当時は面接の達人の域に達して
いました。なのでそれを知ると頭の中に警報鳴り出しました。それは『もしこ
こで入隊を申し込むと、絶対に海上自衛隊に入隊できないだろう』ということ
です。自衛隊とはお役所ですから、公平を保つために、申し込みは申し込み、
試験は試験、面接は面接、合格判定は合格判定で3つとも別人が扱うはずだと
考えました。今、目の前にいる申し込み広報官にいくら誠意を見せても、この
人達は地連に転勤して来て間もないから、合格判定をする広報官に影響力が何
も無いと読みました。


そうとわかればさっさと逃げた方が正解です。「あの、海上自衛隊のことを詳
しく聞くにはどこで聞けばいいんでしょうか?横須賀あたりの地連に行けばい
いんですか?」と言い出すと、広報官が獲物を逃がすかとばかりに「まぁー、
そうだねー。どこで聞けばいいかこれから電話で調べてあげるから、ちょっと
ここに君の名前と住所を書いてね。」と書類を持ってきました。見ると「入隊
申込書兼受験申請書」(正式な名前は忘れた)と書いてあり、陸海空共通の受
験申込書で、住所,氏名,年齢,職業、など詳細に書く欄があります。既に「練
習員課程」にチェックが入っていて、もしこれに記入してサインしちゃうと、
私はH地連から受験する事になり、海自に伝手がないこの地連では入れないこ
と確実です


頭にきたので「何ですかこれ」って言うと、「まぁ、気にしないでいいからと
にかく書いて」とか言ってきます。「トイチ(10日で1割)で金を借りるわけ
でもないのにサインなんか気楽に出来ませんよ」と言うと、「うーん、困った
な、書きたくない?」「嫌です。納得出来ないものにサインなんか恐ろしくて
出来ません」「そうかぁ・・・んーとだね。これから君の知りたい海自の話を
電話で問い合わせるわけだけど、君が何者か知らないと電話の相手が動けない
んだよ」「なんすかそれ?」「うーん、それがお役所仕事ってやつでね、今、
君はここで我々と話をしてお茶を飲んでるわけだけど、これは我々の職場で、
君は我々のお客さんだから問題ないわけ。ところが電話で問い合わせる事にな
ると、電話の向こうの仕事を増やす事になるわけだ。そうなると向こうは向こ
うで動く大義名分が必要になるわけだ。我々は税金で動いているからね。納税
者が納得できる理由がないと我々は動けないわけ。それがこの場合君は何者で
何を受験したいのかって言う理由なんだよ」と言ってきます。もう見え見えで
屁理屈言ってるのはわかるんですが、ここでこの広報官に電話で問い合わせて
貰わないと。どこの地連が海上自衛隊に入隊するための正しい窓口なのか永遠
にわからないことになります。


しばらくにらみ合いが続いたんですが、『ここでとりあえずサインして正しい
地連を教えてもらって、そっちの地連で申し込んでからこの地連での申し込み
をキャンセルしてもらおう。もし話がこじれたらこの話は全部蹴ろう』と決め
「わかりました。書きます」と言って記入欄に記入し始めました。


広報官はほっとして東京のどこかの地連に電話を始めたんですが、横浜地連が
海上自衛隊に詳しいということで、横浜地連にかけ直し、私の疑問をいろいろ
聞いてくれているんですが、聞いていると、横浜地連側は、「とにかくそいつ
を横浜に来させろ。横浜で全部教える、電話じゃわからん」と言っているんで
すが、H地連側は私を横浜地連に取られるのが嫌だから必要な情報だけ教えろ
とごねているわけです。

それを聞いていて、『なんだぁ? 自衛隊の地連ってのは営業所同士で客を奪
い合うのか? 同じ会社なのに仁義無しで商売してOKなのか? 東京都と神
奈川県は管轄が違うからそういうのもアリなんだな』とわかり、『そーか、そ
れならそれでこっちにもやりようがあるわい』と考え、


「あの、すみません。話がこじれてるみたいだからこれだけ聞いてくれればい
いです。神奈川県の地連の広報官の中で海上自衛隊の一番偉い人はどこの地連
にいるんですか? それだけお願いします」と言うと、ごにょごにょやってい
て「田浦地連?はいはい田浦地連ね。ちょっと待って。・・・ゆーじ君、田浦
地連だってさ」「田浦ってどこですか?」「さぁ?」「聞いて下さいよー。頼
みますよー。言われた通りちゃんとサインしたんだからさ」


「わかった。もしもし、田浦ってどこ? 電話番号教えて・・・だってこっち
は東京だから神奈川の地連の電話番号わかんないよ・・・あそ、ありがとう、
それでは」がちゃ「電話番号はこれで住所はこれこれだってさ」「わかりまし
た。今度遊びに行ってきます」「あのね、田浦地連に遊びに行く時、君は東京
地連の人間だからそれを忘れないでね」「なんすかそれ(- -#)」「いや、君、
今サインしたから」「さっきと話が全然違うじゃないすか。電話するからって
条件でこの書類書いたんすよ。そんな話は書く前に聞いてません。ぐだぐだ言
うならそれ破り捨ててください。俺、海上自衛隊入るの辞めます」


「わかった、俺が言い過ぎた。また遊びに来てくれるかい?」「えーっ、いい
んですか?」(注:私は既にH地連とは完全に縁が切れたつもりになっている
が、この広報官はそうは思っていない)「おう!いつでも歓迎するから来てく
れよな」「はぁ・・・」ということでH地連を後にしました。田浦地連という
名前さえ聞けばこっちのものです。


面接必勝法2

次の週の日曜日、当時は50ccのバイク(CB50JX-1)を持っていましたので、たま
には三浦半島1週ツーリングも面白いだろうということで、三多摩地区から横
須賀の田浦までのこのの出かけました。(往復150キロくらい)


海上自衛隊第2術科学校という看板が見えてきて、「へぇー、戦記物に出てく
る術科学校って本当にあったんだな、なんかアナクロ的だなぁ」などと感心し
ていると、その1画に田浦地連があるので、門の前にバイクを止め、門が閉ま
っていたので勝手に開けて中に入り、玄関のドアを開け、「あのー、すみませ
ん」というと机を前にした広報官が顔を上げて「はい?」「田浦地連ってここ
ですか?」「そうですよ。何か?」「あのぉ・・・海上自衛隊に入ろうと思っ
て来たんですけど、ちょっと話を聞かせてもらえますか?」すると広報官がい
きなり立ち上がり「そーかそーか、海自に入隊希望ですね。どうぞこちらに来
てください」といきなり肩をがしっと組まれて古ぼけた応接セットに誘導され
ます。


『なんかH地連と偉い違いだな。ここは俺を本気で歓迎してくれてるよ』と惑
うと、「お茶は何にする、コーヒー,紅茶,日本茶、いろいろあるけどどれにす
る?」「へ? ここはお茶にコーヒーや紅茶なんか出るんすか?」(当時はど
この役所でもコーヒーなんか絶対に出さない時代。VIP以外にコーヒーや紅茶
を出すのはふさわしくないとされていた。なので出るのはどこでも渋茶のみ)
「そりゃコーヒーぐらい出るさ、じゃぁコーヒーでいいね」「はい。お願いし
ます」とネル(布)でコーヒーを入れ出すので、「ネルでコーヒー入れるんで
すか?」「変かい?」「変ですよ、ここはお役所でしょう。お役所はせいぜい
インスタントコーヒーでしょう。ここは不思議なお役所だなぁ・・・」


事務所を見回すと6つの机があり、ここには6人いるんだなとわかる。偉いのは
どこかなと見ると、肘掛け椅子があるからそこだなとわかるけど、日曜日だか
らいないのは当然か。


「君、今いくつ?学生?」「18です。働いてます」「海自の何になりたいの?」
「練習員つーんですか。3年務めるやつです」「練習員課程ね、うんうん、そ
れで?」「ここで申し込みとかできるんですか?」「そりゃできるさ。ここは
地連だもん。君、詳しそうだね、地連は初めて?」「いえ、先週H地連に行っ
て話を聞いたんですけど、担当の人が陸上と航空の人で話が全然見えないから
電話で調べてもらってこっちに来ました」「そーか、君正解だよ。H市じゃ枠
がないから入りたくても入れない!」「そうなんですか!」「あ。いや・・・
そういう訳じゃないけど、そこだと入隊は難しい・・いや、難しいかもしれな
いね」「何故ですか?」「東京都と神奈川県の人口の違いみたいなもんだよ。
希望者が多いと競争率は上がる。そこらへんの問題だな」「あ、なるほど」

胸のネームプレートを見ながら「○○さんは海上なんですか?」「そうだよ、
この制服見てわからない?」「全然わかりません」「そうか、まぁそのうちわ
かるようになるよ」「まだ受験を申し込んでもいないのに入ったみたいに○○
さん言うけど、俺入れるんですか」「あ、それもそうだな、まだ何も申し込ん
でいないんだっけ(一人で爆笑)」


というような感じで、なんか最初から歓迎してくれるので入隊の話とか何もし
ないで2人でお喋りしてると次々広報官が帰ってきて、その人達も交えて、2
時間ぐらい喋ってました。この地連は陸自1人,海自3人,空自1人で所長が海
自の地連でした。帰ってきた海自の所長と副所長ともすぐに仲良くなり、和気
藹々ムードで喋ってました。


「君、珍しいね〜」「なんでですか?」「いきなり尋ねてき来て、ここまでわ
いわいやる人はいないよ」「そうですか?」「みんな緊張しちゃって必要な事
以外喋らないよ」「ここは居心地いいからじゃないかな、みなさん歓迎してく
れるし、アットホームな感じで、なんか役所じゃないみたいですよ。H地連と
偉い違いですよ」「なんだそれ?」「いや、実はこれこれこういうわけで・・
頭に来まして」「そりゃひでぇ! そういうのは無しだよな。それじゃ君が怒
るのは当たり前だよ」「そうでしょ」「そうだよ。それは汚い。なぁ?」「う
んうん」と他の人達も同意してくれるのでますます調子にのって喋っていると、


「じゃぁ、そろそろ俺帰る時間だからこれで帰ります」「うん。今日は君が来
てくれて楽しかったよ。またここに遊びに来てくれよ、あ、そうだ、ちょっと
これ書いてくれる」と紙を出してきます。何かなと思って見ると「入隊申込書
兼受験申込書」


「あのねぇ・・・さっき○○さん、H地連のやり方は汚いって言ったじゃない
ですか。これじゃH地連のやり方のやりかたと同じでしょうが!」「いや、全
然違う」「どう違うんですか?」「問い合わせの電話するから君に書類を書け
とは言っていない、そうだろ」「はぁ・・・」「それに、H地連は日本茶だけ
だったが、田浦地連はちゃんと本物のコーヒー出した」


思わず吹き出してしまい。つられて全員で爆笑したんですが、「○○さん、
それが海上自衛隊流ってやつなんですか?」「そうだよ、こうやってみんなで
馬鹿言ってると楽しいだろ。仕事は仕事、やることやってれば誰も文句を言わ
ない。それが海上自衛隊」「へぇー、そうなんだ。俺入りたくなったな」「頑
張れ」「だって俺中卒ですからね。学科試験は自信ないですよ。もう学校の勉
強は完全に忘れてますよ」


「あー、あんなもんは気にしなくていい。要は入隊したい人間のやる気の問題
だから」「でもなぁ、答えを教えてくれるわけじゃないわけだし」「答えは教
えない、それじゃカンニングだからな。でも間違いは教えるかもしれないぜ」
「はぁ?」「間違いを教えるのはカンニングじゃないだろ」「はぁ、でもそう
いうのありなんですか?」「大きな声じゃ言えないけどな」「でも間違いを教
えてもらっても、答えがわからなかったらどうするんですか?」「俺の鉛筆貸
そうか?」「はぁ?」「鉛筆転がせば正しい答えが出るかもしれないぞ」


「冗談ばかりだとまずいから真面目な話をしようか。仮に俺達が君を入隊させ
たとするね」「はい」「君が教育隊に入ってからすぐに逃げるような根性無し
だとこっちが困るわけ」「逃げる奴っているんですか」「うん、何人かは途中
でやめるようだ。そうなるとやめた人間のせいで入れなかった人間はチャンス
を失ったわけだよね」「え? 意味がわかりません」「だからさ、そいつが辞
めるって先にわかってれば、そいつを落として、そいつの代わりに他の誰かを
入れておけば無駄がないだろ」「そりゃそうですけど、そんなの誰にもわから
ないじゃないですか」「確かに誰にもわからない。わからないけど、わからな
ければならない。そういうのも地連の仕事のうち」「うーん・・・」「君がわ
からないのが当たり前。うちに帰って時間をかけて考えてみ。それがわかれば
君も入れるかもしれない」


注:この人はこの後すぐ転勤になってしまったので私の入隊まで付き合えませんで
  した。もうすぐ転勤で最後の期間だから責任の無い立場でいろいろ私に教えて
  くれたと思っています。



この時点で私は明確に自衛隊に入りたいとは思っていなかったのですが、なん
かいろいろ話こんでいるうちに、にっちもさっちも行かない状況に追いつめら
れて、知らないうちに騙された感じがしてました。考え込んでると、「入りた
いんだろ?」と聞くので「入りたいなとは思ってるけど、これ書いたら、入ら
なければならないって義務になりそうだし、今はそこまで強く思っているわけ
でもないし・・・」と言うと「入るにしろ入らないにしろ、これに書かないと
何も始まらないぜ」と言うので、ここまで来たら引くわけにも行かないので、


「わかりました。書きます。書きますけど、後でH地連とごたごたするのは嫌
ですよ。ここで入隊を申し込んで、後でお前はうちの人間だとか言われるのは
嫌ですからね」「おう。そのために所長がいる。そう言うごたごたは所長に全
部任せておけばいい。さ、安心して書いて」「はい・・・」「所長。こういう
わけだから、H地連に連絡してください」「んーわかった・・・電話中・・・
ゆーじ君、東京地連側と話はついたから君は田浦地連から受験だ。わかったね」
「はい、よろしくお願いします。じゃぁこれで失礼します」


「おう、ご苦労さん。また遊びに来てくれよ。交通費いくらだ?」「はぁ?」
「交通費、電車で来たんだろ。往復の交通費出すから言って」「そんなもん出
るんですか?勝手にここに来たのに?」「出るの」「でも。俺バイクですよ50
ccの」「君、原付でここまで来たのか!よく故障しなかったなぁ」「故障なん
かするわけないじゃないですか。ガソリン代なんかたかが知れてるからいいで
すよ」「そうかぁ、ガソリン代じゃ出せないなぁ。まぁ、これに懲りずに次は
電車で来てくれ。原付だと危ないから」「はぁ・・・」


ということで田浦地連を後にしたわけですが、この広報官の言った謎がなかな
か解けなくて帰りの道でずっと考えていました。要はやる気を見せろという意
味なんだろうけど、そのやる気とは神奈川地連式のやる気であって、一般社会
で言う意味のやる気ではないということらしい。とまではわかりました。


さんざん考えたあげく、広報官の言った謎は「海上自衛隊はおんぶにだっこの
甘えた考え方をする奴は入れないぞ」という意味だと解釈して、水商売の世界
で観察してきたヤクザもんの世界ならこういう場合どうするかと考え、自分の
やったことに筋を通すのがヤクザもんのけじめの付け方なので、H地連に私が
筋を通して、田浦地連で正式に入隊申し込みをしたと報告するべきだろうとい
う結論に達し、数日後にH地連を尋ね、田浦地連で受験申し込みをした事情を
説明して理解してもらおうとしました。


ところがH地連側は私は既に東京地連側の人間ということで上に報告していて、
「とんでもない。君はH地連で受験するべきだ!」と広報官が激高する状態に
なってしまいました。これは私としても意外な話で、既に田浦地連側からH地
連に連絡が入って調整が終わっていた思ったのにH地連側にそういう話は一切
無いので、「あの田浦地連の広報官に騙された。あいつは口だけだったんだ」
と激高。海自の受験はどっちも辞めると宣言しました。


H地連の広報官も、鴨が葱背負ってライターまで持ってきた入隊希望の人間を、
田浦地連にトンビに油揚げさらわれた格好になったわけですから、東京のどこ
かに電話して「どういう意味だ!」と怒鳴り合っていたわけですが、電話を切
ってから、「君ね、上で話が付いていたようだ。君は田浦地連の人間になって
いるらしい。だからこれからは田浦地連で受験してくれ」「連絡ミスだったん
ですか?」「そういうことらしい。上で話がついていた」「どうもお騒がせし
ました、じゃぁ俺は田浦地連で受けます。またここに遊びに来ていいですか?」
「え?いいよ。いつでも歓迎するよ」「それを聞いてほっとしました。また話
を聞かせてください」ということでH地連を後にします。


私はこの電話のやりとりを見ていて、どうも自衛隊の世界とは、ものすごい面
子の世界らしいと受け止め、田浦地連でやる気を見せる事もするけど、それだ
けじゃ足りないだろうから、H地連と仲良くして、H地連側からもバックアッ
プしてもらえるように働きかけようと、漠然とした計算を立てます。


その計算はヤクザもんの言う面子の常識を自衛隊の面子に当てはめたわけで、
たぶん田浦地連の所長は東京地連の所長に電話をして私の所有権を引き継い
だはずなので、東京地連側としては神奈川県に貸しが一つ出来たはずです。
私は今までは無名の一受験者でしたが、これからは私が努力すれば東京地連
の関与した神奈川地連の面子のかかった受験者になれるわけです。


私の学科試験での合格の可能性はゼロに近いわけですから、面接1本に的を
絞り、東京側と神奈川県側にやる気のある人材と思わせ、これで入隊させな
いと神奈川県側の面子にかかわるような話に上手く持っていけば私が合格す
る確立が高くなります。


そのためには私がH地連と仲良くしてH地連側にバックアップしてもらえる
ように振る舞うのが重要になります。バックアップと言っても、「あいつは
どうなった」という程度の問い合わせでしょうが、それだけでも充分バック
アップになります。そして田浦地連で聞くと「やる気がない」と判断されそ
うな質問でも、H地連なら採用に関係ないから気楽に質問できます。


てことで自衛隊が面子の世界だとわかれば次の手は打てます。私は田浦地連に
迷惑をかけたわけですから(ヤクザの世界の論理)私は田浦地連に挨拶にいか
なくてはなりません。とはいえ、あの面白い広報官に会うのも楽しみで、また
楽しい馬鹿話を聞かせてくれるんじゃないかと期待しながら、次の週の日曜日
に50ccのバイクで田浦地連に向かいました。


「こんにちはー!」「おー、来た来た、噂してたんだよ。H地連大変だったろ
う」「そうっすよ。話が通ってるって聞いていたから安心してH地連に顔出し
たら、何も話が通って無いじゃないですか!俺はてっきり田浦地連にだまされ
たと思って、自衛隊入るの辞めるって言っちゃいましたよ」「それで辞めるの
か?」「辞めません、入りたいです!東京地連と神奈川地連との話し合いがつ
いたそうなので、私は正式に田浦地連の扱いになったそうです。これからよろ
しくお願いします」「おー、そうかそうか、よかったなぁ、心配してたんだよ。
頭に来て気が変わるかと思ったぜ」「へへへ」「今日は電車?」「バイク〜」
「ったく、交通費出すから電車で来いって言ってるのに、危ないだろうが!」
「平気ですよ、往復150キロぐらいですからたいしたことないです」「150キロ
ぉぉ!」「そんなもんすよ」「往復何時間だ?」「寄り道するから5時間くら
いかな。ちょうどいい三浦半島のツーリングですよ」「しかしなぁ、そんな距
離を原付で走る奴聞いたことがないぜ」「そうすか?俺、原付しかもってない
し、これ、原付にしてはでかいから長距離楽ですよ」


とまぁ馬鹿言い始めて話が始まったんですが、一段落したところで身上調書を
取るということになりました。「身上調書ってなんすか?」「ほら、高校生と
かだと履歴書だけだとみんな書いてる内容が同じだから、そいつが何者なのか
こちら側には全然わからないだろ。だからそいつが何者なのか、本人からの聞
き取り調査みたいなもんだな。気楽に構えてくれ。今までやってきた仕事とか、
その時の状況とか順番に言ってくれればいい」「ふ〜ん、何歳からの話ですか?
おれ中学校時代の話って思い出したくないんですよ。いい思い出は何もないか
ら」「そうか、まぁ中学は誰でも出るからしなくていいよ。中学出てからの話
をしてくれ」「わかりました」


「えーと、中学出てから親戚の経営する船のディーゼルエンジンの整備する組
に入って」「組ってなんだ?」「ドックに入ってきた漁船のエンジンを整備す
る仕事です。4人位でやってるから組」「ああ、そう言う意味か、海自に入っ
たら機関科志望か?」「そうです」「おー、いいぞいいぞ、機関科は人気が無
いからな。たぶん行けるだろう」「そうなんですか?」「暑いしうるさいだろ、
あまり人気はないな。それで?」「その仕事数ヶ月やって、それからちょっと
家庭内がごたごたしたんで東京に出てきて」「何故?」「えーっ、言わなきゃ
なんないんですか?」「当たり前だよ。北海道から15歳で一人で出てきたんだ
ろ? 就職の時期は完全にずれてるし、普通の15歳はそんなことしない。何故
だ?」「うー・・・・ごめん、ちょっと考えさせて・・・」


数分経過「言わないと入れないぞ」「嘘!そうなんですか?」「悪いことをし
てるかもしれないだろ。犯罪者は自衛隊に入れないぞ。入隊が決定したら君の
調査が入るから隠してもすぐばれる。嘘がばれたら落とす、それが決まりにな
ってる」「うー、わかりました。言います。親が変な宗教をやってたんですよ」
「なんて宗教?」「エホバの証人っての」「何?」「エホバの証人です。もの
みの塔とも言います」「なんだそれ?」「知らないですか?」「聞いたこと無
いなぁ。ちょっと待って。○○さん知ってる?」「ああ、知ってるよ・・・・」


という感じで身上調書の作成が続き、父親に毎日ぶんなぐられて家出して水商
売の世界に入って1975年10月のハルマゲドン予言がはずれたあたりに話が来る
と「ちょっと待った。悪い、今の話をもう一度みんなの前で言ってくれるかな
ぁ」「へ? いいですよ。ここまで言ったんだから誰が聞こうと同じですから」
「おう、すまんな。おい、ちょっとみんな一服にしてくれ、ここで彼の話を聞
いてくれ」ということで、また最初から話が始まります。


今度は4人ぐらいで聞くから新しい質問がいろいろ増えてきて、思い出したく
ない時代の話なので思い出すのも大変だったんですが、『お前は世の中を舐め
てる!世の中はそんなに甘いもんじゃない』という、今までさんざん言われ続
けたお決まりのセリフを言い出したらその場でうち切るつもりで始めたんです
が、誰もそんな事を言わないので結局子供時代から順番に話すことになりまし
た。


陸自の広報官が突然「君はあれか? 自分の更生を求めて自衛隊に入りたいの
か?」「更生?・・・そうなのかなぁ?自分の性格がどうしようもないと思っ
てますから自衛隊に入って自分を鍛え直したいと思ってますけど、そういうの
って更生じゃないですよね」「そういうのを更生っていうの! 君、陸上自衛
隊に入りなさい。2ヶ月後に編入があるから君を入れる!枠は作る!」「えー、
陸自ですかぁ・・・」「陸自嫌いか?」「スコップで穴掘るんでしょ。60キロ
の土嚢担いで走るんでしょ。土木作業しんどいからいやだぁ」「そうかぁ、そ
れじゃしかたがないなぁ・・・」


今度は航空自衛隊の広報官が「君、空自に入りなさい!」「えー、空自って海
自より競争率が高いんでしょ。それに空自に入るなら田浦地連じゃなくて空自
の基地の近くの地連に行ってますよ」「うーん、確かになぁ、君ならそうする
だろうなぁ・・・」


そして身上調書が再開し、キャバレー辞めてシロアリ退治の話になった頃、ま
た陸自の広報官が「所長!この子海自に入れてあげなよ!一人でこんなに頑張
ってるんだ。みんなで協力して入れてあげようや!」と言うと、離れて椅子に
座っていた所長が「うーん。名分がないから駄目だなぁ」「名文って入隊させ
る大義名分のことか?」「ああ」「あるじゃないか!悪の道から更生しかけて
いる青少年を自衛隊で更生させるって立派な大義名文が!」「海自にそんな名
文は無い」「なんだそりゃー!」「陸自にはあるのか?」「あるさ!暴走族で
更生したがってるのはそうやって入れてる。みんな真面目でいい子になるぜ。
海自はそんな大義名分は無いのか?」「あぁ」「ったく! 海と陸じゃ全然世
界が違うぜ。そんなんじゃ人は動かないですよ所長!」「海は機械が動かすか
ら合理的にやらないと人が動かない」「うーん・・・海自は冷たいなぁ、陸自
と大違いだ・・・」


注:これは所長の立場からすると当然で、海自に入隊したい希望者はいっぱい
  いるわけです。地連の広報官は一人一人に均等に接しないと受験者に対し
  てえこひいきになります。えこひいきはばれた時に部内の士気にかかわる
  くらい反響が大きく、陸自のように年間の入隊者がいっぱいいる世界では
  大丈夫でも、海自のように年間入隊者が少ない世界の場合は相当な問題に
  なります。だから所長の判断は正しいと思ってます。(今はね)



長時間の身上調査が終わってから「おつかれさん。思い出したくなかったみた
いだから大変だったろう」「うー、そうでもなかったですけど意外でしたよ」
「何が?」「今までこの話をすると必ず『お前は世の中を舐めてる。世の中は
そんなに甘いもんじゃない』って言われたんですよ。だから言うと必ず言われ
るから誰にも言わないようにしてました」「誰に?」「誰って?」「だからそ
ういうことを言った奴」「東京出てきて15歳で会社に勤めた時にそこの会社の
同僚によく言われましたよ」「そいついくつだった?」「20歳でしたね」「そ
いつって、高校出てからそこの会社に就職してその会社しか知らないんだろ?」
「そうですけど・・・」


「ああ、それでわかった、そいつはただの世間知らずだよ。世間知らずは世間
を知らないから、何かあるとそういうことをすぐに言い出す。自衛隊にもそう
いう奴は必ずいる。どこの世界にも必ず世間知らずはいるから、そういうセリ
フは気にしなくていい。」「そうだったんですか?」「水商売の世界にいたん
だろ。その世界でそういうこと言われたことあったかい?」「そう言えば無か
ったような気がする」「だろ。少しでも世間を知ってる人はそう言うことを言
えない。世間知らずに限ってそういうことを言いたがる、世の中ってそういう
ものらしいぜ、だからこの先も気にすんなよ」「はぁ・・・」


「今日は地連としての仕事はこれでおしまい。今日はこれからこれからどうす
るの?」「そうすねー、時間が余ってるから三浦半島を回ってきますよ」「そ
うか、運転気を付けてな。俺達が電車で来いって言っても君はバイクで来るみ
たいだからさ」「へへへー、じゃぁ失礼しまーす」


「うん。それでね。君とは今日でお別れだからさ。後のことは後任の担当者に
ちゃんと全部引継いでおくから安心してくれ」「へ? 転勤ってどこ行くんで
すか?」「護衛艦あきづき」「どういう船ですかそれって」「自衛艦隊旗艦だ
けど・・・」「すごいっすねー」「すごくもないさ、古いフネだよ」「へー、
頑張って下さいね」「おう、ありがとう。じゃぁな」「はい」「所長も転勤だ
からあいさつしとけば?」「え!」「そうなんだよ、今回の田浦地連の人事異
動は2人、俺と所長」「うそ!」「何が嘘なんだよ、嘘言ってもしかたがない
だろ」「はぁ、そうすね・・・今度来る新しい所長は海自の人ですか?」「陸
自の人だよ」「てことは神奈川地連で一番偉い海自の人はどこの地連ですか?」
「えーと、横浜地連だな。今までは田浦地連がナンバー1で横浜地連がナンバ
ー2で、今期の移動は田浦だけで横浜地連の所長は動かない」「あいたー!」
「何が、あいたー、なんだよ」「いえ・・・何でもないです」


海上自衛隊の人事異動が4月にあるなんて想定していませんでした。それを事
前に想定していれば、4月過ぎてから横浜地連に顔を出せば良かったのですが、
今はまだ3月で、しかも話がここまで来たら手遅れです。東京と神奈川だから
地連同士で客の奪い合いも出来るから、そこに紛れ込んで上手く立ち回ってチ
ャンスつかむ予定でしたが、横浜と田浦なら同じ神奈川地連でツーカーの仲な
ので、申し込みを変更するわけにも行きません。(後日、横浜地連に遊びに行
ったが、既に横浜地連側は連絡を受けていて、私は田浦地連の人間として扱わ
れた)


そして、この下士官の広報官に全てを任せればもう安心だと思って、私として
は安心しきっていたのですが、いきなり私の担当者が転勤なので困ってしまい
ました。作戦的にはこの人に寄りかかれば大丈夫という作戦が水泡に帰したの
で、海自も空自も陸自も関係なく、田浦地連の全員と均等につきあうしか勝機
は無いと考えるしかなくなりました。


次の週、田浦地連から地連の暇そうな曜日と時間を聞き出してましたので、近
所の和菓子屋からおみやげを買ってH地連を尋ねに行きます。目的は田浦地連
で聞いた情報の裏付けと、それを手がかりに新情報を拾い出すことです。


H地連を尋ねて、「ご迷惑をおかけしました」と詫びを入れて(ヤクザの論理)
お詫びにおみやげ持ってきたというと、H地連の広報官はいきなり怒り出して、
「こんなもの受け取るわけには行かない! 持って帰ってくれ!」と言います。
私としても引くわけには行かないので、「食わないならゴミ箱に捨ててくださ
い。これは俺なりの誠意の示し方です」(ヤクザの論理)と言うと、広報官は
困り切って、和菓子をそこら辺に置きっぱなしにしました。


例え食わなくても誠意は通じるもので、前回より和気藹々なムードでお喋りを
始めると、しばらくしたら和菓子を持ってきて「これ、みんなで食おうか?」
と言い出すので「じゃぁ何故さっき怒ったんですか?」と聞くと、役所には役
所のルールがあって賄賂になりそうなものを貰うわけにはいかない。と言うの
で、それが今はどう変わったんだ?と聞くと、「くれた人と貰った人みんなで
食って証拠が消えれば問題ない」と言うので、なるほど、田浦地連におみやげ
を持っていく時はそうすればいいわけだと学習します。


そして田浦地連で聞いたが、H地連には練習員の枠がないと言っていたが本当
か?と聞くと、あっさりと、実はそうなんだ。という返事が返ってきます。何
故入れないのにそうやったんだと聞くと。まず海自を受けさせて。練習員に合
格する可能性が無いことを納得させて、それから陸自希望に切り替えさせて、
最終的に君を陸自に入れる予定だった。と認めます。


それを聞いていきなり頭の中ぶち切れモードに入りそうになったんですが、こ
こで怒ると情報収集の目的を達成できないので、では、あり得ない例だけど、
学科試験の成績が受験者全員同じだった場合、何を基準にして入隊する人間を
選ぶのか?と聞くと、本人のやる気と気合いと根性が何より大事で、途中で自
衛隊を辞めない人間を選ぶ。それを見分けるのが地連の仕事だと言います。田
浦地連と言うことがまったく同じだったので、これは地連の広報官の仕事の基
本なんだなと学習できました。


では自分はどう立ち回ればいいのか?と聞くと、海自希望者を扱ったことがな
いから全然わからないという返事。では質問を変えて、私がH地連で陸自希望
者だったとして、申し込み多数で入隊者を選択しなければならなくなった時に、
私が取るべき態度はどういう態度か?と聞くと、しばらく考え込んでから、い
つも地連に顔を出す奴はかわいいからどうしても情が移る、電話だけで顔も見
せないような奴は、いくらいい奴でも情のかけようがない。こっちも人間なん
だから。と教えてくれました。それさえ聞けば目的達成なのでお礼を言ってH
地連を後にします。


次の週、また田浦地連を尋ねて行きます。田浦地連はコーヒーなのでそれに合
わせて人数分の洋菓子を買って行き、みんなの前で洋菓子を取り出すと、案の
定全員が怒り出します。そこで予定通り「あのですね。これは自分が食うため
に買ってきたんですよ。ちょうど駅前をバイクで通りかかったら美味そうな洋
菓子見つけて、田浦地連は本物のコーヒー入れてくれるから、これを田浦地連
に買っていってみんなで食ったら美味いだろうなぁって思って買って来ただけ
ですよ。嫌ならいいですよ、一人でこれ全部食っちゃいますから。胸焼け凄い
事になるかもしれないけどさ」と言うと、いきなり態度が変わり「いやー悪い
ねー、君はお客さんなんだから、そんな事に気を使わなくていいんだよ」と言
うので、「だからー、俺は自分が食いたいから勝手に買ってきたんですよ。好
きで買ってきたんだからみんな気にしないでくださいよ」と話を展開してコー
ヒータイムになりました。


そして話の枕に、「H地連に枠がないって本当なんですね」と言うと「何それ」
と言うので、H地連が私を最終的に陸自に入れる予定だったと聞き出したと言
うと、「やっぱりなぁ、そうだと思ったよ」という返事。「そういうのって、
よくあるんですか?」と聞くと、「入隊者の枠はその時その時で変わるからね。
どうしてもここじゃないと嫌だと言う明確な意思を持っていない人は、そうや
って違う畑に入れることもあるよ。そうやった後で感謝されることもあるから、
これはいちがいに悪いと判断できる問題でもないね」という返事なので「俺の
希望は海自の練習員だけですからね。他の畑に俺をぶち込もうとしたら自衛隊
入るの辞めますよ」と言うと「わかってるって、君は若いけど事情をよくわか
ってるみたいだから、こっちもそこまではっきり意思を示してくれる人は珍し
いからありがたいよ」


「普通じゃないんですか?」「少ないね。普通の高卒予定者は、ただ自衛隊に
入りたいってだけで具体的にこに行きたいって希望が無い人がほとんどだよ」
「へー」「そうなるとこっちも大変なんだよ。選びようがないからね。陸海空
は全然仕事が違うし、その中の職場も仕事が違う、説明しても結局自分で選び
きれなくて『よくわからないからどれか選んで下さい』って人が意外に多いよ」


「へぇー、地連側にもそんな事情があるんだ・・・でもですよ、私はH地連で
はっきりと練習員希望って言ったのに、その他大勢の一人にされたのは何故で
すかね?」「H市は日教組が強いからじゃない?」「高校側が協力してくれな
いからですか?」「というか、H地連は大変だろうね。横須賀は古くからの軍
港の街だから他の地方に比べて民間人が協力的だけど、その俺達でも人を集め
るのは大変だからなぁ、広報官は焦ったんじゃないの?」「なんだそれ、俺は
捨て駒?」「いや、きっと鴨ネギだろ、鴨が葱背負って、ある日突然地連を尋
ねて来たってとこだな、そこでは空鍋用意して宴会の準備をして君が来るのを
待っていたのさ」「田浦地連も?」「そう。そして今君を肴に宴会中」「でー、
まいったなぁ・・・・」


そこでまた広報官が一人帰ってきて「おう!ゆーじ君か、君のことは○○から
詳しく聞いている。私が君の担当になったからよろしく」「はぁ、よろしくお
願いします・・・」


この人といろいろ喋るんですが、どうもタイプが違うわけです。それまでの担
当者は私とタイプが似ていて、内面的な問題をいろいろ話すのが好きな人です
が、この人は「そんな悩む暇があったらグランド1周して汗をかけ、そうすれ
ば悩みなんか吹っ飛ぶ」という体育会系の人なので、話が合わない人に無理に
話を合わせても自分が墓穴を掘るから、会話は主に海自の副所長とすることに
して、この人とは軽い話しかしないようにしてました。


面接〜入隊までの田浦地連の広報官はこういうメンバー

 地連所長:2等海佐(転勤)→2等陸佐
  副所長:1等海尉→(私が入隊後定年)
海自広報官:3等海曹(転勤)→2等海曹
陸自広報官:3等陸曹
空自広報官:3等空曹



田浦地連に遊びに行くのも3回目になると、私がどういう人間なのか地連側は
全部わかったから質問も少なくなり、顔を出しても1時間ぐらいでネタ切れに
なるので定期的に地連に顔を出すだけにして、2週間に1回ペースで田浦地連
に顔を出すようにしてました。おみやげはあれ1回きりで。引き継いだ広報官
から強硬に「問題になるから持ってくるな」と言われたのでそれきりでした。


最初に田浦地連に顔を出したのが3月頃、6月末ぐらいに入隊試験をして合格
を聞いたのが8月頃、正式に入隊したのが9月末でしたから、かなりの期間、
田浦地連に通ったことになります。もう一度やれと言われても2度と出来ませ
ん。当時はそのくらい自分を変えようと必死でした。


学科試験、面接、etc


海自の資料によると現在の試験は、筆記試験(国語、数学、社会、作文)口述
試験、適性検査、身体検査ってなってるから当時もそうだったと思うけど、マ
ジでなーんも勉強しませんでした。広報官に「勉強しておけよ」って言われる
と、「教科書ありません。そんなもん捨てました」と言い返すくらいで、行動
する割に机に向かうのが苦手だから、こればっかりはどうしようもないです。
一応、数年前の資料だけ見たら試験内容は中学程度だったので、状況によって
は馬鹿でも入れるらしいし、間違いは教えてくれるらしいし、俺は馬鹿だから
いまさらじたばたしても無駄だと開き直り、一切の受験勉強をしませんでした。


筆記試験


6月ぐらいに田浦地連に呼び出され、入隊試験をするからということで行くと、
初めて見るライバルが8人いました。同日、横浜地連でもテストをするというこ
とで、神奈川県の受験者総数18人でした。テスト用紙は2枚だったと記憶してる
けど、数学が思ったより簡単で、つーか方程式をまだ覚えていたので確かこんな
やりかただったな、なんて思い出しながら解いて、国語は漢字の書き取りはアウ
トだったけどそれ以外はOK、社会はまぁまぁでした。


50点満点と記憶してるけど60%くらい出来たかななんて思っていると、試
験官(田浦地連の広報官)が回ってきて、私の答えをのぞき込みながら「うー
ん」と一言言ってから消しゴム鉛筆のゴム側で間違っている答えをぽんぽんぽ
んと指すので『あれ? あの話は本当だったんだな』とわかり、間違った所を
直した頃にまた来て、ぽんぽんと指すので、『そーか、ここもか』とまた答え
を直すわけです。また回ってきて、ぽんと指すと、小さな声で「マジで答えが
わかんないっす」というと、「そうか」と一言つぶやいて行くので。60%が
85%位まで点数が上がりました。


傑作だったのは社会で、テスト用紙に日本地図の白地図が書いてあって、
「信濃川はどこか?正しい番号を選んで、白地図に信濃川の線を引け。@熊本
県、A香川県、B新潟県、C山形県」という問題でしたが、広報官も信濃川の
正しい場所がわからなくて、試験場の部屋から出て、「おい!信濃川って何県
だったっけ! 新潟県だっけ山形県だっけ!」と言うんですが、本州にあるの
はみんな知ってるから「新潟県だっけ山形県だっけ」で2拓に絞られちゃうわ
けです。


そしたらごそごそ地図を見てた誰かがとりわけ大きな声で、「おう、あった!
これだ!信濃川は千曲川が長野盆地で合流してから新潟市の近くで海に出る」
と言うので、私もわからなかったので、助かったーとBを選び、長野県のあた
りから新潟県に適当にそれらしい線を引きます。


試験が終わってから聞くと私のテストは82%の出来だそうで、最高点は何点
ですかと聞くと98%だって言うから、「おー、よかった。これで勝負になる」
と喜んでいると、「俺、新潟市ってどこにあるか知らないから大阪のあたりに
線を引いちゃった」なんてのもいて、『あれ、俺より馬鹿がいたの?』なんて
思ってました。


注:このテストとまったく同じテストを教育隊に入隊後にやらされて、全員点
数がめためたで大騒ぎになりました。1回目に82%だった私の点数は2回目
のテストでは65%で、あ、やっぱりと思ったんですが、地方によってはマン
ツーマンで答えを教えてくれた地連もあったらしく、1回目に90%だったの
が2回目に25%に落ちたのもいて、班長達に「お前ら地連でどういう試験を
受けてきたんだ!」と聞かれ「神奈川地連は間違いを教えてくれました」「○
○地連は答えを全部教えてくれましたー」「うちもー」「俺の所もー、地連の
おっさんが全部答えを教えてくれたー」という状態で、『なんだ、田浦地連は
この中で一番テストが厳しかったんじゃん』と、びっくりしてしまいました。



学科のテストの休憩中に受験者全員と喋ったんですが、みんななんか違う、ど
うも違うんですよ。私は海上自衛隊とは入りたい奴を入れる所、熱望する奴を
入れる所と認識していたわけですが、みんな各地の地連の広報官に説得されて
自衛隊に入りに来たようなのばかりで、受験者8人の中で自分から暇を見つけ
て地連に遊びにいったのは私ともう1人だけ(そいつは合格)後はみんな地連
にお任せ状態で、「どうしても入ってくれって頼むから入ってやる」とか「入
りたくないんだけど地連の人がしつこいから断り切れなくて」とかそんなのば
っかりで、こいつらやる気を見せるってこと知らないんじゃないの?と思い、
またこれで俺の確立が上がるとほくそ笑みました。


作文


次は作文だったんですが、原稿用紙1枚渡されて、「入隊したい動機や、入隊
してから何をしたいか自分の夢を書け」と言われ、ここが勝負と思い、事前に
用意したいくつかのプランの中から、やる気があると判断されそうな事を書い
たわけですが、カンニングOKとのことなのでみんな何を書こうかわいわい相
談しながらやっているわけです。


私がプランはあるんだけど、どう書いていいかわからないから煮詰まっている
と「出来た!」と一人が言い出します。みんな集まって「どれどれ」と見ると、
三分の二しか書いて無くて、なんかいかにも学校の授業中に、作文書けって言
われたから書いた。っていうようなやっつけ仕事の作文で、これじゃまずいだ
ろうと思っていると「そうかこれでいいのか、こんなんでいいんなら俺にも書
ける」言うのが何人もいて、みんな同じような文章を書き出します。


書き終わると退出でしたからみんな出ていくと、最後まで残っていたのは私と
もう1人だけ。(入隊出来たやつ)私が「君、書けた?」って聞くと「難しい
なぁ」って言うから「だよねぇ」って言いながら、お互いに時間いっぱいまで
かかり、私は表全部と裏半分、もう一人は裏表びっしり書いても時間切れで、
「あと五分あと五分」と言いながらしぶしぶ出しました。


面接

数週間後、面接試験でまた田浦地連に集まり、いろいろな種類の受験者がいる
ので30人位が全員建物の外で待機して、呼び出されたら順番に入って、面接が
終わったらそのまま帰っていいという事なので外で一服しながら待っていて、
残り数人になってから地連の事務所に入ると、なんかいつも喋ってる広報官の
メンバーと横浜地連の新顔一人だけで、「どうも」と言って椅子に座ると、副
所長が「ゆーじ君、君は何故自衛隊に入りたいんですか?」って真面目な顔を
して聞くので、「いつも言ってるじゃないですか」って言うと、「あのな、こ
れは試験だからまた言うの。そういうものなの」と言うので、いつも言ってる
事を繰り返して言うと「満期になったらどうする?」って聞くから「わかりま
せん。いい職場なら一生いるかもしれないし、性に合わなければ三年で辞めま
す」と言うと、


横浜地連の広報官が「もし入隊して性に合わなくて嫌になったら途中で自衛隊
辞めるかい?」と聞くので「言ってる意味がわかりません」と言うと、「君の
履歴書見たけど、転職がすごいね。持って1年だろ。この年でこんなに転職す
る人は珍しいんじゃないかな?」と言うので頭真っ暗になり、『バカヤロ、そ
う思われるのが嫌だから田浦地連に通ったんだろが、こっちにはこっちの家庭
の事情ってもんがあるのに・・・』と思って副所長の顔を見るとそっぽ向いて
るから、『あちゃー、副所長は助け船出してくれないのかぁ・・・』とわかり
頭の中真っ白になります。


想定外の質問ですから頭の中がパニックになり、しどろもどろ状態で「あの、
あの、俺ですね、今まで全部から逃げてばっかりだったったんですよ」「全部
って?」「世の中の全部です。仕事とかつき合いとかいろいろ・・・」「ああ、
そう言う意味ね、続けて」「でぇ・・・ですね、ちょっと何か嫌なことがある
とすぐに仕事を変わってましたから、そういうのもう嫌なんです。自分を鍛え
たいと言うか自分を変えたいと思って自衛隊入る、いや、入れたら、自分の性
に合わなくても3年は辛抱するつもりです。石の上にも3年って言うけど、今
までそんなに辛抱したこと無いからこれを機会に辛抱も覚えたいです」って言
うと「君は正直だねー」って言うから、「そうなんですか?」って聞くと、返
事をしてくれません。しばらく沈黙してから、「私からは他にないです」って
横浜地連の広報官が言うので、「ゆーじ君面接終わりです。もう帰っていいよ、
ご苦労様」「え? もうですか?俺、何も喋ってないですよ」と聞いても返事
をせず「ご苦労様」って言うから外に出ると、


「どうだった?」って待ってるのが聞くから、「まいったよー、よりによって
一番聞かれたくないこと聞かれちゃったぜ、年にしては転職が多すぎるってさ、
それだけ聞かれて面接終わっちゃったぜ、これじゃ完全に駄目かもなぁ・・」
って言うと「君は二番目に面接終わるのが早かったよ」「今まで一番時間がか
かったのは?」「ほら、君と一緒に最後まで作文書いた人」「ああ、あいつか
ぁ、あいつなら入るだろうなぁ、優秀そうだもん。俺の半年は完全に終わった
よ」とぶちぶち言いながら帰りました。


今思うと「一生務めます!」と嘘を言うべきだったと思うが、変な宗教やらされてた
おかげで嘘が言えない性格が災いした。次があれば(絶対無いけど)「子供の頃から
海上自衛隊に憧れてて、海が大好きだから一生務めたい」と言うべきで、自分が高卒
だった場合「それなら何故曹候補生にならないのか」と聞かれたら、どうしよう・・・


面接に完全に失敗したので、巻き返しを図ろうと次の週に田浦地連に顔を出し
ます。広報官達は面接で何を聞かれたかって聞いてくるんだけど、それが採用
にどういう影響があるのか一切教えてくれません。というのも、田浦地連の広
報官達ともつき合いが長いですから、何故私がここに来たのか、全部お見通し
なわけです。巻き返そうと思っても無駄だよとは言いませんが、採用に影響の
ありそうなことは一切教えてくれなくなりました。


なんか、事情を聞くと、面接が終わった現在、採用は地連の所長達にかかって
るみたいだけど、人事異動で変わった田浦地連の新しい所長は陸自の幹部です
し、新所長は私となぁなぁの関係にならないように距離を開けてますから話が
全然成立しません。これはどうやら落ちたみたいだなぁと判断して、それから
田浦地連には数回行っただけ、H地連にも顔を出して、「どうも面接に失敗し
たから合格は無理みたいなので試験に落ちたらシロアリ退治の会社の正社員に
なる」と報告してどちらの地連も通わなくなりました。


合格


数週間後、マジで落ちたと思っていると、ある日職場に伝言があって、何かな
と思って田浦地連に電話すると「おめでとう!ゆーじ君、君は合格です」「え?
マジっすか?面接で落ちたと思ってました」「9月28日に入隊だからこれから
身の回りの整理をしておくように、そしてちゃんと会社に退職届けも出すんだ
よ。ついては入隊証明書の授与式があるから日曜日の10時までに田浦地連に来
てくれ。時間厳守、わかったね」「はぁ・・・」「それとね、授与式の後で食
事出すからメシは食わないで来てくれよ」「あ、はい・・・」


さーて困った。入隊が決定したのは嬉しいけど、アパートの整理やら荷物の処
分やらゴミ捨てやらやることいっぱいだし、一番困るのは、今までアルバイト
なのにいろいろ面倒を見てくれたシロアリ退治の会社の社長に辞めるって言い
出すことです。言い出すのがなんとなく気がとがめるので、地連に行ってから
でいいやと思って日曜日の指定された時間に田浦地連に行くと、


「おめでとう。もう会社に辞めるって言った?」「それがー、まだです」「な
にい!まさか入隊するの辞めるとか言い出すんじゃないだろうな!そんなこと
絶対に許さんぞ!」「え、だって何かの間違いかもしれないし」「バカモン!
間違いでわざわざ会社に伝言頼むと思うか!ちゃんと合格してるよ、合格!」
「はぁ、じゃぁ明日言います」「明日のいつ言う?」「え?」「明日の何時に
言う?」「あー、そうすね、明日の午前中に・・・」「よし!、明日の昼にこ
こに電話しろ、ちゃんと退職届を出したと報告しろ、わかったね」「はぁ、わ
かりました。なんか今までと雰囲気全然違いますね」「そりゃそうさ。君は教
育隊に入って入隊式が済んだら正式に2等海士だ。しかし我々地連側は合格を
もって2等海士扱いをする。これから入隊に先立って君に基礎的な事をいろい
ろ教えるからね」「はぁ・・・」雰囲気がいきなり変わって圧倒されぱなっし
です。


「よし、じゃぁこれから副所長と話して」「はぁ・・・」と副所長の前に行く
と、「おめでとう」「あ、ありがとうございます」「うん、君は本当は入れな
かった」「え?」「今回の神奈川県の練習員課程の募集枠は3人。君は7番目だ
った」「え、だって受験者18人て・・・」「学科はな、途中で進路を変更した
のもいる」「全部で何人ですか最終的に?」「9人だ」「あ俺より馬鹿が2人も
いたんだ」「これ、黙って。これは自衛隊の儀式!」「はぁ」「いいか、続け
るぞ。・・・通常ならば君は次回にまわすべき人材であった。しかし、君は我
々にやる気を見せた。毎週長距離を危険な原付バイクに乗って田浦地連まで通
い、交通費も受け取らず、その入隊したいという君の熱意が我々の心を動かし
た。


「いや、そんな、ただ・・・」「こら!黙って。いいか。なので3人目の合格
者を次回に回し、成績7番目の君を3番目に繰り上げ、君を合格にする事にした。
君を繰り上げたのは所長のおかげだ、所長が採用会議で君を強く推薦したから
こういうことが出来た。君が練習員として海上自衛隊に入隊出来るのは所長の
おかげだ。君が教育隊に入ってから逃げると所長の責任問題にもなる。だから
教育隊ではしっかりと最後までやるように。わかったね」「はい・・・」


「じゃぁ、所長に挨拶しなさい、いいか、ありがとうございましたからだぞ、
それが自衛隊のやりかただ」「はぁ・・・、あの、えーと、所長ありがとうご
ざいました」「うん、教育隊でしっかりやれよ。頑張ってな」「はい」「よし、
それだけだ」「はぁ・・・ありがとうございます。 ???????」
(こういう儀式は海上自衛隊では当たり前だが民間人には理解不能)


すると所長が「じゃぁ、私はこれで会議があるから」と出ていくと、副所長が
いきなり「おい!君はどういうつもりだ!何故東京地連に手を回した、君は東
京地連と神奈川地連に喧嘩をさせる気か!」と聞くので「なんの話ですか?」
と言うと「東京地連で君は今回の試験に落ちたら就職するって言ったそうだな」
「そんなのずっと前からこっちでも何回も言ってたじゃないですか。俺、だら
だら入隊待つのは嫌だから試験に落ちたら正社員になるって何回も言いました
よ」


「私はそんな話は聞いてない!」「副所長にもちゃんと言いましたよ」「聞い
てない」「私は言いました」「聞いてない!」「ちゃんと私は副所長に言いま
した!」「聞いてない、私はそんな話は一切聞いていない、聞いてないと言っ
たら聞いてない!」「・・・」「そうだ、私はそんな話は一切聞いていない」


「・・・・じゃぁ、ずっと前から田浦地連の広報官には言ってあります」「東
京にもか?」「H地連はたまに遊びに行ってるから、その時に向こうの広報官
にも同じ事を言いましたよ。面接失敗したからたぶん落ちる、落ちたら正社員
になるって」「そういう意味だったのか」「何か問題があったんですか?」


「大ありだよ!東京地連の所長が君を名指しで田浦地連が東京地連から横取り
した海自入隊希望者はちゃんと入隊出来るんだろうなって確認の問い合わせを
してきた」「東京地連の所長は陸自の人ですか」「そうだ」『やったー!作戦
大成功〜 H地連の広報官に面接落ちたから東京側からプレッシャーかけてく
れって長時間泣き落としした甲斐があった〜』


「なんか、お騒がせしたみたいでどうもすみません」「まぁいい、君はまだ入
隊してないから、これがどういう問題なのか君にわからないのは当たり前だ」
「はぁ、」「こういうやりかたをされては君を入隊させないわけにはいかない。
しかし、こんなやりかたを何人にもやられたらこっちの身がもたない。君を希
望通り入隊させてやるからこのやり方は誰にも言うな。それが君を入隊させる
条件だ。」「はい、わかりました。で、聞きたいんですけど、この件が無くて
も私は採用決定だったんですか?」「微妙な所だ」「微妙って?」「微妙は微
妙だ、私としてはそれしか言えない」『なんだ、それじゃ俺はこれやってなき
ゃ絶対に入れなかったんじゃん』「話はこれで終わりだ、教育隊に入隊したら
最後まで頑張れ」「ありがとうございます。最後まで頑張ります」


「あのー、副所長」「何か?」「いつまで秘密ですか?」「何?」「だから今
の話です。入隊させるから秘密はわかりましたけど、まさか私が死ぬまで秘密
なんですか?いつまでか期限切って下さいよ。そうしないと私の将来のプレッ
シャーになります」「・・・わかった、ここの全員が定年になるまでだ、それ
までは絶対駄目だ」「わかりました、約束は守ります」



☆ちゃんと副所長との約束守ったから全部書いちゃうもんねー(^^)

つまりこういうことです。自衛官に必要なのは「やる気と気合いと根性」であ
り、「気合い」と「根性」は入隊後の素養教育で身につけさせれますが、それ
を身に付けるには本人の「やる気」が不可欠であり、自衛隊は志願制ですから
「やる気」が無い奴を自衛隊に入隊させても、「気合い」と「根性」を強制的
に隊員に身に付けさせることはできません。

海上自衛隊の言う「やる気」には2種類あり、態度で見せる「やる気」と行動
で見せる「やる気」があります。海上自衛隊の評価する「やる気」とは行動の
「やる気」であり、見た目や口先だけで行動しない態度の「やる気」は「早く
昇進するためのおべっか」と言われて嫌われます。

私は、態度の「やる気」は地連で自分が演技することで見せれましたが、ほと
んど毎週バイクで往復150キロを通うことにより、それは行動の「やる気」
と地連に評価されたわけです。(当時は、自分が三浦半島ツーリングにはまっ
ていただけで、田浦地連はドライブ・イン的に休憩させてくれる暇つぶしの遊
び場という認識しかなく、自分にそんなつもりは全然なかった)

田浦地連側が私をそう評価していた時に、私がH地連から手を回して、東京地
連の所長から神奈川地連の所長に私の件で問い合わせの連絡をしてきて、その
確認が神奈川地連から田浦地連に入った時に、田浦地連の広報官全員と副所長
が私を強く所長に推してくれたため、田浦地連の所長が神奈川地連の採用会議
で私を推薦する大義名分が出来て私は入隊することが出来ました。

副所長は私が教育隊に入隊した後、2週間位で自衛隊を定年退職するのですが、
副所長は定年間際の一番最後に自分の職を賭けて私を強く推薦してくれたわけ
です。

これにより私は所長と副所長に大きな借りが出来たわけですが、教育隊修了後、
第2術科学校、初級機関課程での最終成績がナンバー2になり、勤務精励賞をも
らって入隊の時の借りを返します。(というのが海上自衛隊の思考方法)その
ため田浦地連より、「君は精励賞を取ったので入隊の時の件はもう気にしなく
ていい」と正式に言われます。




広報官が「ゆーじ君こっち来て」「はい?」「これから君に海自の基礎的な動
作を教えるからね、気を付けと敬礼の動作を教えるから、これは教育隊ですぐ
に使うから忘れないように」「はぁ・・・」と、基礎的な動作をいろいろ教わ
っていると他の合格者2名が来ます。なんか、副所長の話を聞いていると「お
めでとう」だけで私みたいに変な能書き言わないので、こりゃ本当に俺は入れ
なかったんだと知ります。(私は10時必着で時間厳守、残り2人は11時に地連に
集合でした)


3人の基礎訓練が終わると入隊証明書の授与式があり、この証明書は教育隊で
回収するから絶対になくさないようにと注意を受けます。


缶メシの赤飯


そして、「えーとね。ささやかだけど食事を用意しました。連絡したとおり昼
飯食ってきてないよな」「はい」と3人、「じゃぁこっちに来て」と別室に行
くと、缶詰の赤飯と、缶詰の沢庵と、缶詰のウィンナーが用意してあって、
それを白い紙皿に盛り上げて、「えーとね、この赤飯はおめでたいから用意し
ました。無理して食べなくてもいいから、一応口をつけてね。他に五目ご飯と
鳥ご飯の缶詰がちゃんとあるからね。それと、君たちは2人未成年で1人は成
年だが、本来こういう席では酒なんだが、未成年に配慮してジュースで乾杯し
ます。○○君、君は成年だけど我慢して」「はい」「では、君たちの前途を祝
して、乾杯!」「かんぱーい」(なんかなぁ、いい年して紙コップのバヤリー
ス・オレンジで乾杯ってのもなぁ・・・と思ったけどそんなこと絶対言えない)


「じゃぁ、食事にしてください」というので赤飯食べると、腹が減っていたの
で「うめー! これ美味いっすねぇ!」と私が言うと、「そうかい? 何も無
理して食わなくてもいいんだよ」と広報官、「え、だってこれマジで美味いっ
すよ」と私、「君変わってるね」「え?何故?」「この赤飯まずいって有名な
んだよ」「え、そうなんですか?」「今まで何人も見てきたけど、缶メシの赤
飯を食べて美味いと言ったの君が初めてだな」「・・・・」


海上自衛隊の普段の食事が贅沢だからなのか、私が今までろくな食生活をして
いなかったからなのか、赤飯を食って美味いと感じるのは異常だと言われたの
は初めてなのでびっくりしました。紙皿の赤飯食べて、缶詰の鳥ご飯を全部食
べたけど、食い盛りだからまだ食い足りないので余った赤飯見てると、「おか
わりする」「します」「ふーん、やっぱ君の舌は変わってるよ」「・・・・」
(缶詰めの赤飯が不味いのは陸海空自衛隊の常識です)


次の日、退職届を出すのが気が重くてしかたがなかったんですが、社長が11時
頃出勤してきたので、「社長すみません、いいすか?」「お、何だ?」「あの
ー、いろいろお世話になったんですけど、俺、この会社辞めます」「なにぃー!
何故だ、この会社が嫌になったのか!」「いえ、違います。この会社はみんな
いい人ばっかりですから不満は無いです」「なら何故辞める。バイト代だって
いっぱい出してるだろ。社員になれって言うのに、君はもう少しもう少しって
言うから、君が社員になるって言うのを待ってたんだぞ。ここを辞めてどこに
いく?」「海上自衛隊です」「海上自衛隊っ!何だそれ!お前は軍隊に入るの
か!」「え、えーと、軍隊かどうかわからないけど海上自衛隊の採用が決定し
ました」「何しに行くんだ?」「え、自分を鍛えにですけど」「そうかわかっ
た!」「え?」「もう決まっちゃったんだろ、決まったもんはしかたがない、
わかった」「どうもすみません」


社長はそれっきり憮然とした顔をして椅子に座っていました。まいったなーと
思っていると電話。「ゆーじ君電話。田浦地連だって」時計を見ると11時半で
す。電話するのは昼だって言うのにおかしいなと思って電話を取ると「もう退
職届け出したか?」「え、だって昼になったらこっちから電話しろって言った
じゃないですか、なんでそっちから電話してきたんですか?」「ああ、ちょっ
と心配になったたからな。退職届出したか」「はい、今出しました」「本当か、
嘘じゃないだろうな?「嘘言ってもしかたがないじゃないですか!さっき社長
にちゃんと退職届出しましたよ!」「そうか、良かった、じゃぁ次の打ち合わ
せがあるからまた田浦に来てくれ」「はぁ」と話していると社長が、


「ゆーじ、それ自衛隊からか?」「はいそうです」「ちょっとその電話回せ」
「はい。・・・あの、社長が地連とお話したいそうです。今電話変わりますの
で・・・」と電話を換わると「もしもし!あんたね!国が民間から人材を引き
抜くのはどういうわけだ!あんたら税金で雇われてるのに民間にふざけた真似
をするんじゃない!・・・なにぃ!・・・志願!・・・ゆーじ! お前自衛隊
に志願したのか!」「あ、はい、そうです」「もしもしっ!志願てどういう意
味だっ!志願だから何だって言うんだっ!何でうちの社員候補があんたらのた
めに辞めなきゃならないんだ!・・・・・」


あーあ、だからこっちから地連に電話するって言ってたのにぃ・・・・


入隊


入隊準備のため荷物の整理も進みアパート契約も解約して不要なものの処分を
始めます。15歳から少しずつ買い集めた本棚3本分の様々なジャンルの本も古
本屋にたたき売り、わずか4千円にしかなりませんでしたが、当時はまた買え
ばいいやぐらいにしか思っていませんでした。どうしても捨てれてない本を段
ボールのみかん箱2つだけに減らし、友人にそれを預け、原付のバイクも叩き
売り、ボストンバック1つまで荷物を減らしました。


15歳で東京に出てきたときはボストンバック1つでしたので、またゼロに戻っ
たわけです。前は絶望からの逃避でしたが、今度は努力して将来の希望をつか
む旅立ちですからけっこう気楽に荷物を捨ててました。(今思うと絶版本が山
のようにあったのが痛い。マイナージャンルが多かったから、もう2度と手に
入らない)


入隊の日、朝起きて、布団をたたみ、布団を布団袋に入れて、布団袋と最後の
荷物を全部粗大ゴミ置き場に捨て、大家に鍵を返してアパートとお別れです。
ボストンバック1つを持って歩いてバス停まで行き、バスに乗り、電車を乗り
継いで集合場所の横浜地連に向かいます。


集合場所の横浜地連に行くと田浦地連の陸自の広報官がいるので、「4人で電
車で横須賀まで行くんですか?」と聞くと「いや、車を用意した、車で横須賀
教育隊まで行くよ」と言うので、「えーっ、俺電車で一人で行きますよ。これ
で娑婆とお別れだもん、娑婆の見納めしてから教育隊に入ります」と言うと、
「そんな大げさな、最初の何週間か外に出れないだけだよ。すぐに外出できる
さ」と言います。


私は友人の陸上自衛官に話を聞いた時に、教育隊での外出は班長と一緒の引率
外出ばっかりで、個人で自由に外出できるのはだいぶ先と聞いていたので、そ
れならと最後の日に民間人としてどういう順路で横須賀教育隊に行くのか詳細
なプランを立て、JR横須賀駅を降りてから教育隊に行くまでの順路を調べ上
げ、最後は教育隊の隊門の正面にある喫茶店で娑婆で飲む最後のコーヒーを飲
んで、それからおもむろに気合いを入れて海上自衛隊に入ろうと考えていたプ
ランが地連側の用意した車のおかげで、音を立ててがらがらと崩れて行きまし
た。(脳内だから音は出ないな(^^;


「うー・・・」「何か文句でもあるのか、ゆーじ2等海士!」「・・・文句な
いです・・・○○3等陸曹」(田浦地連での入隊証明書授与式以降、田浦地連
側は教育隊入隊予定者を正式な2等海士扱いするのでこう呼ぶ。入隊員も相手
も階級で呼ぶように指導される。初めてゆーじ2等海士と言われた時は誇らし
かったが・・・)


「そうか、じゃぁみんな揃ったから行こう」と駐車場に行くと、幌付きのジー
プに向かいます。「ちょっと!○○3等陸曹!いつもの三菱ランサーじゃない
んですか?」「おう、今日は荷物があるからな」「だってランサーの方が荷物
いっぱい積めますよ」「うるさいなぁお前は、車がこれしか用意出来なかった
の!さぁ文句言わずにみんな乗った乗った!君たちは荷物と一緒に後ろの席に
乗ってくれ、我々は前だ」言うのでジープに乗ると、これが狭い!しかも運転
中はものすごく換気悪そう・・・


なんか広報官の態度が微妙に今までと違うので入隊者3人が小声で「なんか変
だよな、君そう思わない」「あぁ、今まで優しくて親切だったけど、今日にな
って急に態度が変わったぜ、どうなってるんだ?」「なんか、俺達みんな騙さ
れたんじゃないのか?」と言ってると広報官が「なんか言ったか!」「いえ、
何でもありませーん」と3人


2人がタバコをすぱすぱ吸い出すので頃合いを見て私が「あの、○○3等陸曹。
タバコ吸いたいんですけど、後ろの席に灰皿無いみたいなんですよ、その助手
席の前の手すりに引っかかってる「煙缶」って書いてある灰皿取ってもらえま
すか?」と言うと、今まで言葉少なに運転していた1等海曹が「駄目だ!お前
達は未成年っ!未成年は禁煙っ!」といきなり怒鳴られます。


3人ともびっくりしちゃって、ますます小声で「おい、俺達やっぱり騙されて
るよ。君、海自ってどんな所だって聞いてた?」「なんか先輩達はみんな優し
くて面倒見がいいって言ってたよ」「だろ、俺もそう聞いた、君は」「普通の
会社と同じで集団生活するところだけが違うって言ってた。これが優しい扱い
か?やっぱり俺達騙されたんじゃないの?」「なんか入隊するの嫌になってき
たな」「俺もそう」「僕もそんな気がしてきた・・・」


3等陸曹の広報官が運転している1等海曹と会話してるんですが、この3等陸
曹は田浦地連にいるときは上司を上司とも思わないタイプで、幹部自衛官にぞ
んざいな口を聞く人なので、そういう自由に喋れる社会っていいなぁって思っ
ていたのですが、2人の会話を聞いていると。1等海曹が何か喋ると、「はい
っ!そうだと思います!」とか「はい、わかりました!」と気合いを入れて返
事をしていて、役所の役人が上司に頭を下げているような口の利き方をしてい
ます。これは私にはショックでした。どうも下士官と幹部の世界と、下士官同
士の世界は全然違う世界らしい。ということは下士官と下っ端の兵隊との関係
はどういうことになるんだ・・・・


などと思っているうちに、事前の計画で、ここで立ち寄って入隊前の最後の食
事をと予定していた食堂を通過します。私としては教育隊の隊門の前にある喫
茶店で飲む娑婆で最後のコーヒーだけは譲れなかったので交渉してみると「だ
めだ!まっすぐ教育隊に入る!」と一喝されてしまいます。


私はそれを聞いて完全にふてくされてしまいます。どうも自分から熱望して海
上自衛隊の入隊を希望したのは間違いだったと気が付きます。「まいったなぁ、
こんな話になるって最初からわかってたら絶対に入らなかったぜ、この社会っ
て俺の一番嫌いな頭ごなしに命令される社会じゃん。後ろのドアを開けて飛び
降りて逃げようかなぁ?」と思って後ろのドアを見ると開け方がよくわかりま
せん。『げ!それでジープなのか!ランサーが余ってるのにわざわざジープに
したのは俺達が途中で逃げれないようにジープにしたんだ!』と気が付いたけ
ど後の祭りです。


そのうち林ロータリーの交差点が見えてきて、陸上自衛隊の武山駐屯地が見え
てきます。後少しで娑婆とお別れなのに、海上自衛隊は最後のコーヒーも飲ま
せてくれない・・・ 


横須賀教育隊の隊門は陸上自衛隊武山駐屯地の隣です。ジープが停車すると、
黒のセーラー服を着て、縁の無い白い丸帽に「横須賀教育隊」と金色で書いた
ペンネント(リボン)を付け、白の弾帯を腹に巻き、足首に白の脚絆を付けた
衛兵が、見たこともないような変な敬礼をして「どちらですか?」と聞くと、
「ご苦労様です。神奈川地連です。第179期練習員課程入隊者3名到着。これ
より第2講堂に向かう。総員5名」「ご苦労様です。どうぞ」と言うとジープ
は発進して教育隊の中に入ります。


隊門を通りすぎて後ろを振り向くと、『あぁ・・・娑婆で最後のコーヒーを飲
む予定だった喫茶店がどんどん小さくなっていく・・・不味そうな店だから、
だぶん本当に不味いコーヒーなんだろうけど、俺にとってものすごく意味のあ
るコーヒーなのに飲めない・・・あぁ、とうとう店が見えなくなった・・・・』


喫茶店が見えなくなるといきなり頭に血が昇り、『くそーっ! 地連に騙され
たーっ! 俺はなんて馬鹿なんだ! 俺は自分から志願して刑務所に入っちま
った! とんでもない判断ミスをしてしまった! 今すぐ・・・いや3年だけ
辛抱するけど3年経ったら絶対に自衛隊辞めてやる、こんな所絶対に辞めてや
るーっ! 15歳でやっとJWから自由になれたのに、19歳と2ヶ月で俺の人生
は終わってしまった。くそーっ!3年満期になったらこんな自衛隊絶対に辞め
てやるーっ!』























2003/06/01



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