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海上自衛隊専門用語に一部記憶の脱落があり、後で間違いに気付けば修正します。


【敵機誘導弾本艦に命中! 応急班、応急配置につけ!】


硫黄島の沖にあるチャーリー海面。この訓練海面は常時時化ていて有名な場所
で、アルファー、ブラボー、デルタ海面は全部米海軍に取られていて、日本の
使用するチャーリー海面のみ常時時化ていると言われている悪名高い場所であ
る。


第33護衛隊、DE216護衛艦あやせ(既に廃艦)は、DE222護衛艦てしお、DE225
護衛艦のしろと共にチャーリー海面で演習を実施中で、すでに出航して10日が
過ぎている。





ちくご型、護衛艦あやせ(艦齢25年を過ぎ、既に廃艦)
護衛艦てしおから撮影、後方は護衛艦のしろ



航海中のワッチは配置によって時間が違い、航海科は4時間の3直である。4
時間3直のワッチは民間の船舶と同じで、世の中の一般的なワッチ時間なのだ
が、機関科の機械室は、室温が冬でも32度、夏は58度位あるので、ワッチ
中の機関員の体力消耗を考え3時間3直になっている。


そのため、ワッチとワッチの間の自分の時間は6時間しかなく、通常の航海で
も睡眠時間は5時間強になり、さらに演習では昼間でも夜間でもおかまいなく
戦闘訓練でたたき起こされるので、この時期は眠くて眠くていつも頭がぼーっ
としてくる頃でもある。


第2機械室、内燃科操縦員の私の配置は、通常航海中は操縦室の機械室操作盤
の前で、三菱製2サイクルV12気筒(ターボ4器付き)のディーゼルエンジン
(4250馬力)2台の操縦を担当していて、21時から24時までのワッチを終
え、後部居住区にある3段ベットの一番下(幅80cm高さ70cm長さ2m)のベット
に潜り込む。


今夜はかなり時化ているので、艦(ふね)の横揺れの合計は30度を超えてい
て、そのままではベットで振り飛ばされて寝れないので、2本の転落防止ベル
トに半分もたれかかるようにして体が振り飛ばされるのを防いでから、吸い込
まれるように熟睡していく。


頼むから朝までアラーム鳴らないでくれよと願いながら・・・・・Zzzzz




カーン、カーン、カーン、カーンカーン、カーン、カーン、カーン、・・・・
「教練対空戦闘ーっ!」


「くっそーっ! この時間にかよ!」時計を見ると寝てからまだ30分、急い
でベットから飛び降りると、履くのに一番時間がかかる靴下を一番最初に履き、
作業服を上下着て、ズボンの裾を靴下の中に入れ、帽子の顎ひものゴムを顎に
かけて、右腰の軍手、左腰のタオル、胸ポケットのタバコの在庫をを確認して、
ベットをざっと畳んで、ここまでわずか30秒、周りを見回して、寝ぼけてい
る隊員を揺り動かす。「○○3曹、起きてください。アラーム鳴りました。教
練対空戦闘です」「えっ!」がばっと起きる○○3曹。


周りを見ると、寝ていた隊員30人位も大騒ぎで作業服を着ていて、「艦スケ
(艦長)のバカヤロー、また司令(33護衛隊司令官)の点数稼ぎにアラーム
鳴らしやがったぁ!」と毒づきながら全員急いで服を着る。


総員戦闘配置に付けのアラームが鳴ってから、後部居住区の出入り口のハッチ
を締めるまでの時間はわずか1分30秒。もたもたしてると後部居住区の出入
り口のハッチを閉められてしまい、ハッチの中央に付いている非常用の丸い脱
出ハッチから出るはめになる。そんな事をしようものならCPO(先任海曹室
に住んでいるいる一等海曹[当時は曹長の無い時代])から大目玉を食らうの
で、全員が急いでラッタル(階段)を駆け上がり、あらかじめ決められた自分
の戦闘配置にすっ飛んでいく。


教育隊でしごかれた時は、起床ラッパが鳴ってから、急いで作業服を着て、簡
単にベットを整えて100m離れた隊舎前に整列するまでに許された時間は、
1分20秒。それに比べたら10秒も余計にあるから1分30秒は楽勝である。
ポケットのタバコの在庫を確認して、鍵のかかった自分のロッカーを開けてタ
バコを補充するくらいの時間の余裕はある。


「よし!1分30秒過ぎた、ハッチ閉めるぞ!」「あぁ!待って待って!今出
るから!」「バカタレ!おめーは遅いんだよ、このねぼすけ! 早く出ろっ!」
アラームが鳴っても気が付かないで寝ていて、誰かに揺り起こされるまで30
秒ほど余計に寝ていた数名の寝坊組が怒鳴られる。「だーん!」数名がかりで
出入り口ハッチを閉めてケッチ(留め金)が閉められる。



私の戦闘配置は後部応急班電話員。応急班とは敵弾が本艦に命中して火事や浸
水がおきた場合、急いで火を消して浸水を止める防火防水が仕事で、応急修理
をして艦(ふね)の戦闘航海を続行させるのが仕事である。後部応急班の待機
場所は食堂なので、後部居住区から階段を上がって食堂に移動するだけで済む。


誰かが、食堂の棚の上に置いてある炭酸ガス膨張式救命胴衣と防毒マスクをテ
ーブルの上にぶちまる。その中から自分の物を探し出して、自分の名前を確認
してから、急いで防毒マスクのバックを右肩から斜めにかけて救命胴衣のベル
トを腰に巻き、電話箱と書いてある箱の中から、電源無しで通話が出来るヘッ
ドセット式の有線電話機を首にかけヘッドホンをかぶり、通話ケーブルを接続
箱に繋ぎ、30mの延長ケーブルをテーブルの上に置き、赤く塗った応急班用
のFRP製ヘルメットをかぶる。


『応急指揮所、後部応急班。後部応急班電話員配置に付いた。後部応急班電話
員ゆーじ士長。電話の感度はどうか』『後部応急班、応急指揮所了解、感度良
好』『こちらも感度良好、おわり』


横を見るとCPO(先任海曹室)の応急班長(応急科の1等海曹で先任海曹、
戦闘配置は後部応急班班長)が仁王立ちになって班員達の動きを見ている。
「応急班長、後部応急班電話員配置に付きました、電話の感度良好、異常なし
です」「よしっ!」これで私の仕事は一段落。


この応急班長は仕事の鬼で、仕事のやり方は正規分の正規、決められたマニュ
アル通りにやらないと誰であろうとすぐに大目玉を食らわす人で、とにかくや
たらおっかない人である。私は2等海士の時から2年近くこの人と組んで仕事
をしているので、もうこの人のやり方は完全にわかっていて、マニュアルの基
本と応用の使い分けさえしっかりやっておけばまず怒られることはない。応急
班の電話員の仕事は応急班長の口と耳なので、常に応急班長のそばを離れず、
必要があれば応急班長に情報を報告するし、私の判断で勝手に応急班指揮所に
報告する事もある。


他の応急班の班員の動きを見ると、食堂のテーブルの上に毛布をひき、斧、大
ハンマー、消火器、消火用具など規定の道具を順番に並べていく、火消しが仕
事の応急科員は消防服を急いで着てるし、倉庫からOBA(炭酸ガス循環型酸
素発生式の呼吸器)を引っ張り出してくる。誰かが大声で「消火器よしっ!」
「OBAよしっ!」「斧よし!」などと規定の応急用具が規定の場所にそろう
たびに大声で報告している。全ての準備がそろった所で、誰かが「後部応急班
準備揃いましたぁ!」と応急班長に報告。応急班長はそれを聞くと私を見て、
「電話員、指揮所に連絡、後部応急班準備よし!」私が「電話員復唱します。
指揮所に報告。後部応急班準備よし」「うん」『応急班指揮所。後部応急班!
後部応急班戦闘配置についた、後部応急班戦闘準備よし!』『指揮所了解』


応急班指揮所の電話員が、自分のマイクのスイッチをわざと押しっぱなしにし
て指揮所の情報を流している、私はそこから漏れて聞こえてくる操縦室や応急
班指揮所が艦橋とやりとりしている会話を聞いて、操縦室での報告状況を判断
して必要なら応急班長に報告する態勢になっている。その時『応急指揮所、前
部応急班・・・前部応急班準備よし!』『指揮所了解』すかさず私が、「応急
班長、前部応急班準備よしです」応急班長は腕時計をちらっと見て「うんっ」
と、にっこりする。


あーよかった、これが逆だったらどうなることやら、今頃は待機場所の前部居
住区で前部の応急班班長が応急班員全員に「お前ら何をやっとるのか!後部応
急班に負けたじゃないか!お前らもっと気合いを入れて仕事をせんかっ!」っ
て怒鳴りあげられているけど、俺らはには関係ないもんねー、自衛隊はなんで
もかんでも競争だから、戦闘配置の競争に負けた前部応急班はお気の毒である。


ここで応急班の仕事は一段落、とりあえずのお仕事はおしまい。戦闘中でも食
堂の椅子に座って待機するのが仕事だから、椅子にさえ座っていれば寝てても
いいし、コントラクトブリッジというトランプやっててもいいし(月末精算)
お喋りしててもいいんだけど、深夜の1時でみんな眠いから、いきなりテーブ
ルにばったり倒れ込んで爆睡開始。応急班長も腕組みして居眠り開始。でも後
部応急班30数名中絶対に寝ちゃ駄目なのは私だけ。私は電話員だから連絡が
来た瞬間に応答しなくちゃならないから起きてるのが仕事。でもこの頃になる
ともう完全に慣れてるから耳にだけ神経を集中してうとうと睡眠開始。


艦はしばらくの間、回避行動で右に左に舵を取って大きくローリングするけど、
今日は右20度、左20度位しか揺れないから揺れたうちには入らない。本当
に揺れる時は、右に45度、左に45度位揺れるから、簡単に壁を横に歩ける
し、そんな時に食事時間だと、みそ汁を入れた長さ1m×幅60cm×深さ40cm位の
バッカン(飯缶)が、突然ポルターガイスト現象で30センチ位浮き上がって
数秒間空中浮遊した後、壁に向かってすっ飛んでいき、「がっしゃーん!」と
言う音と共にみそ汁が床にぶちまけられ、以後の隊員は全員みそ汁抜きになる
けど、今日はそんなにひどい揺れじゃないから大丈夫。


私は椅子を後ろに傾かせて、椅子の足を半分浮かせて壁に寄りかかって2時間
位うとうとしていると、ふと何か感じる物があって目が覚め、なにげに横に座
っている応急班長を見ると・・・うわ、応急班長といきなり目が合っちゃった!


『やべっ!応急班長起きてるぜ。もう対空戦闘のアラームが鳴ってから3時間
たったから、そろそろ戦闘訓練終了で解散なはずなのに、応急班長が起きてる
って事は絶対に何かあるぞ!・・・』


私はにっこり笑ってから応急班長と目で会話。でもこの鬼の応急班長は絶対に
何も教えてくれないし、もし私が口で「応急班長、これから応急訓練でしょ?」
って聞くと、今度は意地になって絶対に何も教えてくれない人だから、しつこ
く目で会話していると、私に根負けした応急班長の目がいきなり「にこ」


『まいったなー、これから応急訓練やるのかよ。訓練終わったら、俺またワッ
チじゃん。これで今日の夜は全然寝れないぜ』って思ったけど、そんな事思っ
ても無駄だから、応急科員の2等海曹に目で連絡。2等海曹は私がじっと見て
いるのに気が付いて「何事だ?」って顔をするから、私が応急班長を見る振り
すると、「わかった」って目で合図。横で寝ている奴を肘でつつくと、そいつ
は何事って2等海曹を見るから、2等海曹が応急班長をあごで指すと、了解し
て、隣の奴を肘でつつく。この無言の伝言ゲームが続いて、数分後には全員椅
子にちゃんと座って待機の姿勢。

それまでわいわい勝手に騒いでいた艦内放送をよく聞くと、「みぎ舷から突っ
込んで来る敵機!3インチ連装速射砲用意!」2分後「よおーいっ!」30秒
後「撃ちーかたはじめ!」1分後「・・・敵機撃墜」全員がほっとする。夜間
の演習だから実弾も訓練弾も撃たないけど、やってる段取りは実戦とまったく
同じ。これで敵弾命中なんてことにならないでくれよって思いながら艦内マイ
クに注意を続けると、


「みぎ舷から突っ込んでくる敵機!・・・40ミリ機関砲用意!」頭の上で
「うぃーん、うぃーん、うぃーん」って音がしてスェーデンのボフォース製4
0ミリ連装機関砲が動き出す。この40ミリは太平洋戦争中、神風特別攻撃隊
を撃ち落としたのとまるっきり同じタイプで、昔のゼロ戦なら簡単に撃墜した
んだろうがジェット機だと動きが早すぎて追尾出来なくて、航空機が引っ張る
訓練用の吹き流しを実弾射撃しても全然当たらないので有名な機関砲である。
「よおーいっ!」30秒後「撃ちーかたはじめ!」1分後「敵機撃墜」全員が
ほっとする。


「ひだり舷から突っ込んでくる敵機!・・・40ミリ機関砲用意!」
「よおーいっ!」30秒後「撃ちーかたはじめ!」
『おいてっぽう屋頼むぞ、今度もちゃんと撃墜してくれよな』


「敵機離脱!」
全員が上を向いて「えーっ! 嘘だろーっ!」いきなりみんな殺気立つ。


「・・・・・・・敵機誘導弾近づく!」


「敵機誘導弾本艦に命中! 命中場所、本艦ひだり舷! 後部応急班、応急配
置につけ!」いきなり戦闘配置に付けのアラームが20秒間鳴り出す。
カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン・・・・


そーら始まったぞ戦争だ戦争だ!俺達の仕事だ仕事ぉぉぉ!
全員が一斉に立ち上がって応急班長を見る。


「状況っ!左舷冷凍機室付近に敵機誘導弾命中! 応急班総員、応急配置につ
け! 偵察員、各部の被害状況の偵察にかかれっ!」応急班長が大声で怒鳴り
あげる。偵察員数人がいきなり後部に向かって走り出す。


 後部:指揮所、後部応急班!ひだり舷冷凍機室付近に敵機誘導弾命中の模様
    っ!現在偵察員が被害状況を調査中っ!
指揮所:ひだり舷冷凍機室付近に敵機誘導弾命中の模様、現在偵察員が被害状
    況を調査中指揮所了解っ!引き続き情報を報告せよ!
 後部:こちら後部、引き続き情報を報告せよ了解!連絡終わりっ!


「応急班長!指揮所に状況報告終了!引き続き情報を報告せよとのことです!」
「了解っ!こら!お前また勝手な事をやったな!」「えへへーっ!(^^)時間の
節約節約ーっ!」「この野郎っ!俺に勝手にやるなって言っただろうが!」
「応急班長すいませーん(^^)」「ったく、この馬鹿がっ!」


走っていった偵察員が次々と帰ってきて「食料庫異常なしっ!」「医務室異常
なしっ!」「非常発電機室異常なしっ!」「舵機室異常なしっ!」と報告が続
く、そして「冷凍機室に大火災発生、浸水中!」と大声で報告が来る。


「電話員!指揮所に報告!被害の場所!左舷後部冷凍機室!大火災、浸水発生」
私が大声で「電話員復唱します!指揮所に報告!被害の場所!左舷後部冷凍機
室!大火災、浸水発生!・・・応急班長!浸水ですね、大浸水じゃないすね?」
応急班長が「そうだ、大浸水じゃない!浸水だ!」私が「電話員了解!指揮所
に報告します!」


 後部:指揮所、後部応急班!被害の場所はひだり舷後部冷凍機室!大火災、
    浸水発生中!
指揮所:後部、指揮所!被害の場所!左舷後部冷凍機室!大火災、浸水発生中
    了解。大浸水じゃないな?
 後部:大浸水じゃないです。浸水です!応急班長に確認しました!
指揮所:了解、後部応急班、応急作業にかかれ!
 後部:後部応急班、応急作業にかかれ了解! おわり!


「応急班長!指揮所より連絡!応急作業にかかれです!」応急班長が「応急班
長了解!初期消火作業にかかった!」私が時間の節約のために命令の復唱と通
話を同時にして、大声で連絡する。


 後部:指揮所、後部応急班!後部応急班はこれより応急作業にかかる!初期
    消火開始した!
指揮所:指揮所了解、後部応急班電話員は適時状況を指揮所に知らせ!
 後部:後部応急班電話員は適時状況を知らせ、了解!


私が応急班長を見ると、応急班長は私の連絡に納得してうなずく。
その時、初期消火のために粉末式消火器をもって消火作業にかかった連中が帰
って来て「初期消火失敗!」「よし!CO2(炭酸ガス)消火器かかれ!」す
ると横で待機していた奴が「了解!CO2消火器かかりますっ!」と言って火
災現場に飛び込んでいく。私は指揮所にそれを報告。すると規定の噴射時間の
30秒後、「応級班長!CO2消火器による消火作業失敗!」「よし!水霧式
消火器放水開始!」


火消しが仕事の応急科員が消防服にOBA式呼吸器を付けて水霧式消火器に消
化ホース付けてのしのし登場。火元に向かって「上ぇ!下ぁ!上ぇ!下ぁ!上
ぇ!下ぁ!」と大声で気合いをかけながら消火作業を開始、その後ろには、先
頭の消火作業をする1番手の応急科員を襲う火を水霧の盾で守る役目の2番手
の消火員がアプリケーターと言う3mの延長ノズルを付けて続く。
(但し訓練なので、ホースに海水は満たすが放水はしない)


冷凍機室入り口に先頭の消防員が接近する。艦は440ボルトとか220ボルトの高
圧電気を使っているので、消防員が放水で感電するとあっけなく昇天してしま
うので、機関科の電気員が配電盤のブレーカーのスイッチを落として停電させ
る。


いきなり真っ暗になった艦内を懐中電灯の明かりが動く。消防員は火元に接近。
艦内火災は一般家庭の火災と違い、家の構造物が上から落ちてくる心配がない
ので一気に火元に近づき徹底的に消火するのがコツである。



私が応急班長の横にいてふと火元と反対側のハッチを見ると、幹部が3人ふら
っと入ってくる。しかも3人とも書類挟みを肩から下げている。「応急班長、
想定員3人来ました」「ん」『ありゃ?つーことは応急班長は想定員が来るの
を知ってたのね、だから事前に俺に目で教えてくれたのね。』


すると、運用科(艦の出入港の作業の受け持ち)の2等海曹も想定員が来たの
に気づいて、何を思ったのかいきなり「1分隊聞けぇっ!お前ら全員気合い入
れて防水するぞっ!もし防水に失敗して冷凍機室放棄なんて事になってみろ!
てめえら全員、後で整列だぞっ!」「おーっす!」1分隊は気合いが入りまく
る。


それを見ていた3分隊の機関科連中は、みんなそっぽ向いてにやにやしながら
『あーやだやだ1分隊は。俺は1分隊じゃなくて本当によかったなぁ、あいつ
ら全員脳味噌が筋肉で出来てるんじゃないのか?』って白けた顔をしている。


「冷凍機室消火完了!冷凍機室鎮火ぁっ!」応急科員の大声の報告が入る。こ
こから俺達の戦争は本番になる。「防水作業開始っ!」応急班長の大声。『指
揮所ぉ!こちら後部!冷凍機室消火完了、冷凍機室鎮火っ!これより後部応急
班は冷凍機室の防水作業にかかる!」私も時間を節約して大声で指揮所に報告。


「おらおらおらっ!そこ危ねえぞ!どけどけぇ!」待ちくたびれた防水の受け
持ちが、3m位の円材(3寸の角材)木製のくさび、かけや(木製大ハンマー)
ノコギリなどを持って冷凍機室に飛び込んでいく、「木栓かかれ!」「木栓失
敗!」「よし、箱パッチ当てる。毛布当てろ!」「毛布当てた!」「箱パッチ
当てろーっ!」「箱パッチ当てたぁ!」「押さえてろよ、円材で受け木立てっ!」
「了解!円材の切断この位置!ノコギリで切断!」現場は戦争である。「おら
おら気合い入れろ気合いっ!ちから出せちからぁ!力の出し惜しみすんなよっ!
もたもたしないでさっさと切ろっ!お前はいつまでノコギリで遊んでるんだぁ!」
「円材切断!」「よーし受け木立てろ!くさび刺せぇ!」「くさび足りません!
受け木が短すぎます!」「よしっ!上甲板行ってくさび取ってこい!必要なく
さびは4本っ!駆け足!急げ!」一人が冷凍機室から飛び出してくる、応急班
長は既に冷凍機室の中だが、私は冷凍機室の入り口で待機して視界を確保しつ
つ指揮所に電話連絡を続けている。


足りないくさびを持って来るまで防水作業は待機になるので、ふと上を見上げ
ると、消火時の排煙用に食料搬入用の大型ハッチが開かれていて送風機の蛇腹
が外に出ている。快晴の夜空の中に星がいっぱい。『あー、お星様きれいだな
ぁ、灯火管制してるから天の川がものすごくくっきり見える、オリオン座がき
れだなぁ、南十字星ってどれだろう?この位置で見えるのかなぁ・・・・・・」


なにげに15秒位夜空を見上げていると、想定員がさっと横を通りすぎる。
『やべっ!想定員があっち行ったぞ、絶対に何か悪さをするはずだぞ。まずい
なぁ、俺の知らないスイッチいじらないでくれよなぁ。間違っても配電盤なん
かいじらないでくれよぉ、今日は電気屋の数が足らないんだから、下手すりゃ
俺が直さなくちゃならないんだからなぁ・・・・』


すると木製のくさびを取りに行った隊員が急いで帰ってきて戦争再開。「受け
木立てるぞ!くさび打て!」「受け木完了!」「よーし支柱を取り付けるっ!
円材の切断はこの位置!ノコギリかかれっ!」「急げ急げ急げ急げ急げ急げぇ!
もたもたしないで早く切ろうぜ!気合いだ気合い!」その時いきなり停電!
「うわー全然見えねぇ!懐中電灯と移動灯持ってこい!電気の修理もだ!急げ」
真っ暗な中を数人が飛び出して来て食堂から移動灯を持ってすぐに冷凍機室に
飛び込んでいく。


その時、私が教育を受け持つ内燃の2等海士2人が飛び出してきて、「ゆーじ
士長!俺達2人が電気の修理に行けって応急班長に言われました!でも俺達、
全然わかりませんっ!」「当たり前だ!なんでお前らが出てくるんだばかやろ
ー!内燃に電気がわかるわけがねぇだろう!電気屋はどうしたっ!」「電気の
○○3曹はノコギリで柱を切断中ですっ!」「あいたー!それでお前らが代わ
りに行けって言われたのか!」「そうらしいです!」「ったく、応急班長は内
燃も電気も似たようなもんだと思っていやがる・・・・・いいか!さっき想定
員が医務室の横と隔壁の手前の照明のスイッチを切った!あそこの赤いスイッ
チが見えるな!あの横の白いのが通路と冷凍機室の照明のスイッチだから急い
でスイッチ入れてこい!通路の照明のスイッチは医務室の横にある3つあるう
ちの真ん中!冷凍機室の照明スイッチは正面の隔壁の脇の7つあるうちの右上
だ!俺は電話のケーブルが短いからあそこまで行けないんだからな、お前ら急
いでやれっ!」「はいっ!わかりましたぁ!」通路の照明はすぐに点灯する。


「ゆーじ士長ぉぉ!これですかぁ!」「馬鹿!お前っ、俺の話の何を聞いてい
たんだ!右だ右、・・・・それじゃないっ・・・・・ちがうってのに!違う!
お前は右も左もわかんないのかっ!そこの7つあるスイッチの箸の方だ!違う
箸だ箸!それは茶碗だぁ!箸を持つ手の方のスイッチ入れろ!・・・・・こら
っ!茶碗じゃなくて箸だっつーのに!早くっしろ!」


「冷凍機室の照明はまだかっ!機関科ぁ!作業急げぇ!」
「はいっ!今やってます!もうすぐ修理完了です!ちょっと待ってください!
こら!お前らパニックで右も左もわからなくなったのか!右ってのはな、お前
が毎日せんずりの時に使う方の手だ、お前ら毎晩艦内のトイレでせんずりこい
てんだろが!右ってのはお前らが毎晩握ってる方の手だぁ!」我々の大声の漫
才を聞いていた冷凍機室から爆笑の声が上がる。


「そうだ!それそれ!さっさと回せ!・・・こらっ!お前、何をためらってる
んだ!さっさとスイッチ入れろ!・・・・・・・おいっ!お前ら、俺の声でパ
ニックになってるんじゃねーよ!俺を信じろ!そのスイッチで間違いないんだ
から俺を信じて早く回せぇ!・・・・だからぁ!お前ら頼むからそこで凍り付
いてないでそのスイッチ回してくれよぉぉぉ!」つられてこっちまでパニック
になってしまい、冷凍機室から大爆笑の声が上がる。


冷凍機室の照明が点灯して2等海士二人が走って帰ってくる。「ゆーじ士長す
みません、どうもよくわからないくて・・・・」「お前ら左利きか!」「違い
ます!2人とも右利きです!でも箸とか茶碗って言われたから焦っちゃって」
「パニックになって右も左もわからなくなった奴に右と左を教えるには箸と茶
碗で言うしかないだろ! ったく、お前らに右を教えるのにせんずりする方の
手って言わないとわからないのか!」「すいません!」「てめーら俺に恥かか
せやがって、俺が下で笑われちゃったじゃねーか!お前ら早く中に入って防水
作業を継続してこいっ!」「はいっ!」2人が冷凍機室に飛び込んでいく


「状況中止!状況中止!」


『指揮所ぉ、こちら後部応急班!防水作業完了、状況中止!』『指揮所了解』
「おらっ!内燃の2等海士2人!ちょっと上がって来いっ!」「はいゆーじ士
長!」「いいか!状況中止だから防水作業はこれで終了だからな!これから全
部きれいにあとかたづけだ!お前らは若いんだから他の分隊の若い衆に遅れを
取るなよ!あとかたづけが終わったら全部掃除だから、先に急いで箒と掃布
(モップ)を用意しろ!掃除も競争だからな。1分隊に絶対負けるなよ!」


後かたづけが全部終わって、また食堂の椅子に全員座って、後部応急班は待機
に入り、私以外の全員が爆睡を開始して30分後・・・・


「みぎ舷から突っ込んで来る敵機!3インチ連装速射砲用意!」2分後「よお
ーいっ!」30秒後「撃ちーかたはじめ!」1分後「・・・敵機離脱!」後部
応急班員の半数が前方を向いて、「ふーん・・・・」俺達には関係ないって顔
をしている


「敵機誘導弾本艦に接近中!衝撃に備えろ!」


「敵機誘導弾本艦に命中! 命中場所、本艦みぎ舷! 前部応急班、応急配置
につけ!」戦闘配置に付けのアラームが20秒間鳴り出す。カーン、カーン、
カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン・・・・


応急班長が少し大きい声で「偵察員、各部異常の有無を点検してこい!」それ
を受けて数名の偵察員が走っていく。その他の連中は・・・ほとんど寝てる(笑)
寝てる奴は起きもしない。偵察員の報告が終わり、応急班長が私に「指揮所に
報告、後部点検各部異常なし」「了解、指揮所に報告します」と手抜きの復唱
をして『指揮所、後部、後部点検各部異常なし』『指揮所了解』これで後部応
急班の仕事は終わり。あとは前部応急班から人員の応援要請があるかもしれな
いので、私は電話に注意を集中して、必要と思う連絡を応急班長に報告する。
ところが前部応急班から全然報告が上がらない。おかしいなと思って聞いてい
ると、前部応急班の電話員は新人の2等海士がやっている・・・・・


指揮所:前部!前部!前部応急班電話員!どうした!返事をしろっ!
 前部:はい!前部応急班電話員です。
指揮所:前部応急班!状況報告はどうした!報告をあげろっ!
 前部:えー、すみません。少し待ってください・・・・・
指揮所:早く報告をあげろっ!前部応急班は配置についたのかついてないのかっ!
 前部:みんな配置についています、いま作業中です。
指揮所:だったら早く指揮所に報告をあげんか!ばかたれっ!
 前部:えー、すいません今班長に聞いてみます。
 前部:前部配置につきました。
指揮所:なんだその報告はっ!ちゃんと習ったとおりに正規のやりかたで報告
    をあげんかっ!
 前部:あー、どうもすみません・・・・
指揮所:ばかもんっ!どうもすみませんなんて報告はないっ!ちゃんと言えっ!
 前部:はい・・・
指揮所:はいなんて報告も無い!さっさと言えっ!
 前部:前部応急班配置に付きました、初期消火を開始しています。
指揮所:ばかやろーっ!てめぇ、俺をなめてんのか!被害報告が先だろう!
    前部の被害状況をさっさと指揮所に報告しろっ!
 前部:はい、えーっと、みぎ舷ジャイロ室に被弾・・・・現在大火災発生中
    それと・・・・浸水しています。どうぞ。
指揮所:ったく!大浸水じゃないんだな!
 前部:えっ?大浸水ってなんですか?
指揮所:ばかっ!俺に聞くんじゃねぇっ!応急班長にそのまま伝えろ!浸水は
    大浸水じゃないんだな!
 前部:・・・そうです、大浸水じゃないです、浸水です。
指揮所:指揮所了解!次の報告は!
 前部:え?なんすか?
指揮所:初期消火を開始したんじゃないのかっ!アホォ!
 前部:・・・前部応急班はこれより応急作業にかかる・・・・初期消火開始
    した・・・もとい! 消火失敗しました。現在CO2消火器で消火中です。
指揮所:初期消火失敗、現在CO2消火器で消火を開始した指揮所了解っ!前部
    応急班電話員は適時状況を指揮所に知らせっ!
 前部:前部了解!
指揮所:こらっ!了解じゃねーだろっ!てめぇ!命令の復唱はどうしたっ!
 前部:あ、はい、前部応急班電話員は適時状況を指揮所に知らせ、了解しま
    した。
指揮所:気合い入れて仕事しろよっ!指揮所連絡終わり!


私も初めての電話員だった2等海士時代に同じように毎回毎回この海士長に怒
られ続けて育ってきたから、少しかわいそうになって禁じられている私用電話
を開始


 後部:前部応急班電話員、こちらは後部応急班電話員ゆーじ士長。前部応急
    班の電話員は誰か。
 前部:前部応急班電話員、第一機械室内燃の○○2士です。
 後部:あ、おまえかぁ。あのな、さっき後部でやっていた応急訓練の時の俺
    の電話連絡を聞いてたろ、あれをそのまんま真似すればいいんだから
    な、難しく考えないで俺のやってたことをそのまんま真似しろ、わか
    ったな。
 前部:・・・・・・
 後部:てめぇ!まさか、さっきの俺達後部応急班の訓練中に電話をかぶって
    寝てたんじゃねぇだろうなっ!
 前部:いえっ!寝てません!
 後部:だったら俺のやってたとおりに電話の真似しろ!聞いていたんなら報
    告の流れはわかったはずだ、お前なら出来るはずだから頑張れ!
 前部:それがー・・・
 後部:何だ!
 前部:さっきの後部の訓練中に、お前は休んでいていいからって、前部応急
    班長に電話を取られてましたのでゆーじ士長の話を聞いていません!
 後部:なんだそりゃぁ!お前、班長に言われたからって電話を簡単に班長に
    渡しちゃったのか!
 前部:はぁ、まずかったですか?
 後部:当たり前だばかやろーっ!電話をかぶるのが俺達の仕事だろう!班長
    に電話を渡したら、お前は職場放棄だぞ!
 前部:はぁ、すみません・・・・
 後部:電話員は耳で聞いて仕事を覚えるんだよっ!電話をはずしちゃったら
    電話員の仕事を何も覚えられないだろうがっ!
 前部:はぁ・・・・
 後部:わかった!お前は勝手にずーっと苦労してろっ!前部後部、以上連絡
    終わりっ!


前部応急班の応急班長は電気科の先任海曹で1等海曹の電気長なのだが、この
人は理想的な上司タイプで、常に正規分の正規を要求する鬼の班長である後部
応急班長とは正反対の性格の人である。2等海士はタダでさえ大変なんだから、
少しでも楽をさせてやろうという考え方をする心の優しい人で、上司にしては
珍しく物わかりがよくて話の通じる温厚な紳士の人である。


夜間の戦闘訓練はただでさえ大変なんだから、2士で電話員のお前は大変だか
ら寝てろって電話を代わっちゃって、2士にとことん楽をさせてくれるんだが、
おかげでこの2士は電話員の仕事を覚えれない羽目になって、俺達海士長全員
に怒られることになる。


こっちは2士で電話員を始めてから数航海やってるんだから、このくらいは当
然知っているはずだろうと思って、そういうレベルの仕事を要求するが、この
2士は仕事で楽をしすぎて仕事を全然知らないわけ、先に苦労するか後で苦労
するかの違いだけなんだけど、どっちがいいんだろうね?



 前部:万能消火器で放水を開始しました。
指揮所:どこにだ!
 前部:あ、すみません、ジャイロ室です
指揮所:士官室前通路は火事じゃないのかっ!火事はどこに消えたんだっ!
 前部:あ・・・・・・


新人の2士に、お前は勝手にずーっと苦労してろとは言ってみたものの、あま
りの報告のひどさを見るに見かねて、助け船を出すと・・・・


 後部:○○2士、そう言う時はな、士官室前通路を水霧式消火器で放水開始、
    士官室前通路鎮火した、これより火元のジャイロ室に突入する。だよ。
 前部:はぁ・・・すいません。
指揮所:ゆーじっ!てめぇ!このばかやろーっ!おめーは余計なことを言うん
    じゃないっ!それではこいつの訓練にはならんっ!関係のない奴は黙
    ってろっ!
 後部:うへー、後部了解!・・・○○士長すいませんでしたあっ!
指揮所:おうっ!わかればいい!お前は黙ってろよ!こいつに苦労させなきゃ
    いつまでも電話の訓練にならん!
 後部:へーい。


このベテラン海士長は、3年2年2年の3任期目に突入した24歳の海士長で、
1任期目で21歳の海士長である私が口答えなんか絶対にできない、ものすご
く仕事に厳しくて怖い人である。


この後、この2士は訓練が終わるまでずーっと指揮所の電話員のベテラン海士
長に怒鳴られ続けていて、完全にさじを投げた私は電話を聞きながら一人で爆
笑。それを不審に思った連中が5人ばかり私のヘッドホンの周りに集まってき
て聞き耳を立てて、2士が怒鳴られるたびにみんなで爆笑し続けたのは言うま
でもない。


 前部:士官室前通路水霧式消火器で放水開始、士官室前通路鎮火、これより
    火元のジャイロ室に突入する・・・もとい!突入しました!
指揮所:電気は!照明はついているのか!
 前部:停電です!
指揮所:停電なら停電と報告せんかっ!なぜ報告しないっ!
 前部:・・・・・・
指揮所:電気科は電気の修理にかかったのか!
 前部:・・・・・・
指揮所:前部電話員!報告急げっ!


 前部:ジャイロ室消火完了しました
指揮所:本当だな、本当に消火完了したんだな!鎮火の報告はいつ来るんだ?
 前部:あ、すいません。ジャイロ室鎮火、これより防水作業にかかります。
指揮所:指揮所了解!


 前部:えー、木栓作業失敗して、なんか鉄の箱みたいのを壁に押し当ててい
    ます。
指揮所:それは何だ!鉄の箱なんて艦内にはいくらでもあるぞ!ちゃんと言え!
 前部:・・・・えーと、箱パッチです、箱パッチを壁に当てました。
指揮所:毛布は!毛布は当てたんだろうな!
 前部:あ、はい当てました。当ててから何人かで箱パッチを押さえています。
指揮所:それで!その前に報告する事があるだろう!外板の破孔の穴の位置と
    穴の大きさを知らせ!
 前部:えっと、穴の位置は僕の腰の高さで穴の大きさは握り拳ぐらいです。
指揮所:お前の大きさは誰も知らん!お前の身長は20メートルなのかっ!
 前部:いえ、違います、身長1メートルm75センチです!
指揮所:ばかっ!そうじゃないっ!お前の身長や拳骨の大きさを基準にして上
    に報告しても、聞いた奴はお前が誰なのか知らないんだから被害の状
    況が全然わからん!そんな報告は上に伝える事ができんっ!具体的な
    破孔の大きさと高さと隔壁からの位置をちゃんとした数値で言えっ!
    単位はセンチとメートルだ!


 前部:今、ジャイロ室に柱を立てています。
指揮所:柱ってなんだ!前部応急班はジャイロ室の中に家でも建てるのか!
    みんなで家を建ててそこに住むのか!そこで宴会でもするのか!
    ちゃんと正規通りに報告しろっ!
 前部:あ・・・すみません、えーっと、円材を切断して受け木を立てて、
    くさびで止めました!
指揮所:指揮所了解っ!


 前部:指揮所、状況中止です
指揮所:おうっ!指揮所了解!○○2士っ!全部終わったらお前は後で俺の所
    に来いっ、お前にたっぷり話があるっ!
 前部:はぁ・・・・わかりました・・・・前部応急班電話員連絡終わり・・・


ちなみに「整列」の話に書いてある、私が2士の時に説教されて泣きそうにな
った海士長はこの人で、泣かされそうになった原因はこの電話でした(笑)




我々のショータイムも終わりに近づく。


艦内マイクで「教練対空戦闘終わり、別れ」の連絡があり、やっと解散になる
「あーぁ、やっと終わったー、用具納めするぞー」防毒マスクや救命胴衣や斧
などを所定の位置に戻して居住区のハッチを開けて、三々五々帰ってきた隊員
がベットに潜り込む。


時計を見ると朝の5時近い。「まいったなー、たったの1時間しか寝れないぞ、
眠いんだから真夜中に5時間も戦闘訓練やらすなよなぁ・・・あー疲れた、さ
っさと寝よ」ぶちぶち言って、寝たと思った瞬間「ゆーじ士長、時間です」と
声をかけられる。「はにゃぁぁ・・・・今何時なの?」「ワッチ交代15分前
です」「え、もうそんな時間なの? 俺、寝た気が全然しないぜ。わかったあ
りがとさん」今脱いだ作業服をまた着て一服して、6時5分前に操縦室に行く。


操縦室とはエンジンの遠隔操作をする部屋で、車で言えばアクセルとクラッチ
とギアの遠隔操作を受け持つ部屋である。このほかに、機関室の中でエンジン
の運転状態を監視したり直接エンジンを操作する隊員達が別にいる。機関科の
操縦室は第1機械室の海士長1人、第2機械室の海士長1人、それを指揮する
幹部自衛官1人の計3人でワッチを取る。


「第2機械室操縦員、操縦室ワッチ交代しまーす」それを受けて同期の海士長
が「ほいよー。ただ今第2戦速、現在ちんば運転中。右赤5、左黒3、各部異
常なし。排気温度良好。お前ら応急班は大変だったなぁ。お前、今回一番割り
食ったんじゃねぇのか? お前、結局何時間寝た?」「1時間半」「うぷぷ。
おつかれさん!3直は毎回割りを食うからなぁ」「お前は戦闘訓練中は何をや
ってたんだよ?第2機械室の戦闘訓練は何だったんだ?」「敵機誘導弾が命中
して、各部の異常の有無を調べた後は、造水装置の陰で作業服を枕にしてずっ
と寝てたよ。ちょうどいいお休みだったぜぇ。俺はこれからメシ食って寝るか
ら後よろしくねー。んじゃ、願います!」と、だらけた挙手の敬礼「はいはい、
了解!」と、だらけた挙手の答礼をする「あんたはぐっすり寝てて下さいや、
なんなら永久に起きなくていいからよ」「そう俺に絡むなって、お前もそのう
ちにいいことあるからよ」「ばーか、あるわけねーだろ、艦長は1直なんだか
ら一番やりやすい時間に戦闘訓練かけるんだろ、割を食うのはいつも3直さん
だよ」「航海科は4時間ワッチだから機関科の3時間ワッチから少しずつ時間
がずれていくからそのうちいいことあるって」「機関科の3直にいいことがあ
る頃には横須賀に入港だよ、五月蠅いからお前はもうメシ食って寝ろ寝ろ」
「はいはい、じゃぁな、運の悪い3直さんは頑張ってねー、おーやっすみ♪」


えーくそ!戦闘訓練は眠いから嫌ーい!南極観測船「ふじ」なら戦闘訓練がな
いから「ふじ」に乗りたいなぁ、皇帝ペンギンと肩組んで記念写真撮りたいな
ぁ・・・・



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【参考1】
電源無しで通話が出来るヘッドセット式の無電池電話

マイクと回路の部分を首からかけて胸のあたりにぶら下げてるヘッドホン付き
のカーボン式マイクの有線式音声電話で、大昔の電話と同じように電源がいら
ない電話機である。第二次大戦中、日本海軍はテレトークと言われる電源を必
要とする電話機を使っていたため、艦内の電源が落ちるといきなり電話が使え
なくなり、伝令を走らさせるしかなかったが、アメリカ海軍の電話は最初から
電源がいらないので艦内の電源が落ちても関係なく使えた。海上自衛隊では、
そのアメリカ海軍の電話をそのまま使っている。この電話は非常に小さな音で
しか聞こえなくて、しかも大声を出すとすぐに音が割れるので聞き取るのには
ものすごい慣れが必要。しかし慣れると機関室の大騒音の中でもちゃんと聞き
取れて会話が出来るようになる。(つーか1日でも早くこの電話の小さい音に
慣れないと海士長クラスに毎回怒られる)





電話の連絡はマニュアルに従ったやり方で報告しなければならない




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【参考2】

隊員は教育隊で全員が消防訓練を受けており、まず座学で火事の3要素を習う。
火事とは、熱と酸素と可燃物があるから火事になるわけで、その中の一つを取
り去れば火事は必ず消えることを習って、消防装備の使用法を一通り習った後、
2本の消火ホース(メインとバックアップ)で油火災を消火する訓練を受ける。


野外に装備してある直径10m、高さ1.5mの丸い解放型タンクに海水を満たした
中に重油をたっぷり流しこみ、火を付けて山のように燃え上がらせた後、2本の
消火ホースを水霧にして消火して、油火災は必ず水で消せることを体験する。



先頭から3人目の班長が筒先を受け持つ2人の隊員の首根っこを無理矢理つかんで
「あっちだ、こっちだ、違うこの馬鹿もんっ!」って怒鳴りながら火を消している場面


その後、コンクリートで出来た10坪位の建物で、床から1m位の中空に鉄板で
歩行通路を造ってある機関室を想定した建物の床に海水と重油をたっぷり流し
込み、火を付けてビルジ火災を起こして、10坪の建物の窓という窓から3m
以上の炎が噴きだしている中を、先頭6人+2番手6人+指導班長1人=消火
ホース3本だけで火の海の中に全員気合いで突入する。

建物の入り口で先頭が「上ぇ!下ぁ!上ぇ!下ぁ!」と大声を張り上げて気合
いを入れながら消火作業を開始、2番手は先頭を守るために先頭の背中に放水
して、入り口の火勢が弱まると、班長の号令の元、火の海の中に13人が全員
突入して、床下から吹き上げて来る炎(背の高さ以上)と格闘する。


この時に消火姿勢が悪いとなぜか必ず眉毛を焼かれる→ちなみに先頭だった私
も右眉毛を焼かれた→理由はしゃがみ込んで床下の火を消す時に、水霧式ノズ
ルと消防ホースが重かったから腕の力が抜けて消火姿勢が悪くなった一瞬の隙
に炎が襲って来て眉毛を焼かれた→消火が終わってから「眉毛が焼けたのはお
前の消火姿勢が悪いからだバカタレ!」と班長に怒られた→同期の奴ら全員に
笑われた→仕方がないから左眉毛を右眉毛に合わせた→情けないから力を付け
るのに自主トレ開始した。


指導班長の消火ノズルは筒先以外の隊員を火から守るためだが、1本で間に合
うわけがないから、運が悪いと数秒間は火の海の中で全身が炎に包まれる事も
ある。(これまた眉毛を焼かれる。)これで火を消すコツをつかんだ後は、ス
モークチャンバーという、コンクリート製で2階建ての建物の中で古タイヤを
燃やし、明かり無し視界ゼロの真っ暗な中での消火訓練をする。


こういう訓練の結果、艦内火災とは初期消火が一番大事で、とにかく急いで火
元に近づいて一刻も早く消した方が後が楽という消火のコツを知るので、火の
中に飛び込むのを恐れるような奴はほとんどいない。(ちゃんと装備しての話)


こういう、とにかく気合いで火事を消す癖のある海上自衛官が退職後に消防局
に勤めると、一般家庭の火災現場で興奮してしまって、火の海の中を一気に火
元に飛び込んで行って火災を消したはいいが、延焼後の建物の構造物が崩れて
生き埋めになって殉職する可能性があるから、消防局側の再訓練は大変らしい
(こいつは嘘か本当かわからないけど隊内でよくありがちな噂)


万能(まんのう)ノズル(水霧式消火器)

水霧式消火器とは、旧日本海軍が真珠湾を攻撃した当時、ニューヨーク市消防
局が使っていたビル火災用に作られた真鍮製の鋳物で出来た消火ノズルで、手
元のハンドル切り替えることにより、停止、水霧、直射に切り替える事ができ
て、水で油火災を消すことができる水霧式の消火器ノズルである。通常の水道
ホースの親玉みたいな直射式の消火器ノズルで油火災を消そうとすると、油は
水より軽いので火災が水の表面に浮き上がってしまい、かえって火災が拡大す
るのだが、これは水霧で火災を包むことにより酸素を遮断して火を消す消火器
ノズルである。艦内では1インチ半(7センチ位)の消防ホースをつないで海
水で消火する。


第2次世界大戦中、日本の空母が攻撃を受けるとあっけなくぼこぼこ沈んで、
アメリカの空母が攻撃を受けてもなかなか沈まなかったのは、この水霧式の消
火器ノズルがあったからで、空母の格納庫に飛行機がある状態で爆撃を受ける
と、格納庫の中の航空機の燃料タンクが爆弾の破片を受けてガソリンが漏れて
ガソリン火災(爆発的な火災)が発生する。直射式の消火器ノズルしか持たな
い日本海軍はガソリン火災をなかなか消せないからどんどん沈んでしまったが、
アメリカ海軍はこの水霧式消火器ノズルを使ってガソリン火災を簡単に消せた
のですぐに戦列復帰できたといういわくつきの高性能消火器ノズルである。


映画バックドラフトで出てくる2.5インチの消防ホースを繋いだ消火ノズルが
水霧式消火器ノズルで、アメリカでは消火効率優先でやたらと重い2.5インチ
サイズだが、日本人が2.5インチを持って「上ぇ!下ぁ!」ってやると重すぎ
て2分と持っていられないので、日本人の体格に合わせて1.5インチサイズに
小型化した一回り小さいタイプを使っている。


消火用品は映画バックドラフトとほとんど同じで、延長ノズルのアプリケータ
ーも斧も映画と同じ物を使っている。違うのはヘルメットがつば無しなのと、
長靴がゴムではなく皮で出来た防火長靴なのと、呼吸器が胸にタンクのあるO
BA式呼吸器なことぐらいである。OBA呼吸器とは自分の吐いた呼気の炭酸
ガスを活性炭に吸着させて、酸素だけを再循環する呼吸器で、有毒ガスの中で
も30分くらい持つ。



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【参考3】
何をやっても怒られる応急班電話員

本当は応急班長に命令されてから復唱して応急班指揮所に報告をするのが正規
のやりかたなのだが、アラームが鳴って数秒後には応急班指揮所から、「後部
電話員!被害状況を教えろ、とにかく教えろ、訳がわかんなくてもいいからと
りあえず教えろ!」って五月蠅くて、それでも応急班長のいいつけを忠実に守
って教えないと、訓練終了後に応急士(幹部の3等海尉)から「そんなの関係
ない!お前はいいわけをするな!言われたとおりに指揮所にすみやかに報告し
ろ!」と怒られる。


だからって応急班長の存在を無視して勝手に指揮所に被害状況を報告すると、
毎回必ず「引き続き情報を報告せよ」って応急士の命令が出るから、それを応
急班長に伝ると、「電話員は勝手に状況を指揮所に伝えるな!お前は俺の許可
無く勝手な連絡をするな!」と怒られる。


で、言っても言わなくても怒られるから、指揮所に報告しておいて、応急士の
「引き続き状況を報告せよ」の命令をとぼけて応急班長に伝えないと、今度は
応急班長が「指揮所からの、引き続き情報を報告せよの命令はまだ出ないのか」
って聞かれて、今度は電話員の私が指揮所の命令を聞き損なった事にされちゃ
って応急班長に怒られる。


つまり、どっちにしても何をやっても電話員の私は毎回必ず怒られるわけ。
それが毎回だからもう慣れっこの応急班長と私の漫才です。


これは、火を消すのと浸水を止めるのを最優先にして仕事の段取りを組んでい
るから、どうしても仕事の段取りに矛盾点が出てきて、その矛盾がすべて電話
員に来るようになっているからなんですが、私の後を引き継いだ1等海士がこ
れで完全にめげちゃって、とことん落ち込んでしまったから「お前な、応急班
の電話員は報告してもしなくても必ず上に怒られちゃう配置なんだからあきら
めろ。どうせ応急班長に怒られるんなら、積極的な事をやって怒られた方がま
だ自分の健康のためにいいんじゃないのか?」って教えてからそいつも完全に
開き直ってしまい、応急班長を無視して指揮所に勝手に報告して、毎回毎回応
急班長に怒られてました(^^)
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【参考4】

防水訓練:木栓と箱パッチについて

教育隊での防水訓練は、高さ3m程の屋根のない鉄板の箱の中で行い、腰の高
さの壁に数カ所、5センチ位の穴が開いていて、それが高圧海水の配管に直接
つながっている。隊員は作業服に革靴の服装で防水道具を持って中に入り、水
深に相当する高圧海水が噴き出す中、布をまいた木栓をハンマーで叩き込んで、
防水作業の練習をする。防水作業が上手く行けば膝くらいの水深で作業が終わ
るが、防水作業に失敗すると胸まで水位が上がって来て全員がえらい目にあう
事になる。(同じ班の班員が木栓作業に失敗したおかげで首まで水に浸かって
えらい目にあった)

箱パッチとは木栓では止まらない大きな穴を塞ぐために行い、みかん箱位の大
きさの鉄板でできた箱を使い、穴に毛布を当ててから数人がかりで箱パッチを
当てて、角材を適切な長さに切って反対側の壁と箱パッチの間に支柱を入れて
から木製のくさび2本で箱パッチを固定する。壁が無い場所では、天井から床
に斜めに受け木を立ててくさびで固定して、それに支柱とくさびで箱パッチを
固定する。



防水作業の概念図(内まくれのある場合の直角法による箱パッチの遮防法)


この訓練は真冬にやったけど海水が温かかったですよ。
若かったから気合いさえあれば何でも出来る時期でした。
でも、今やったら間違いなく次の日に熱出して寝込むこと請け合いです(笑)
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【参考5】

想定員

想定員の幹部達は応急班の作業状況を見て勤務成績をつけるとともに、訓練の
練度に応じて被害状況をもっと悪化させて、パニック寸前で必死に作業してい
る隊員達に想定外の突発事態を起こしてさらにパニックにさせて、隊員達をパ
ニック慣れさせるのも仕事である。


これは日清日露戦争以来の伝統的な訓練指導方法で、マジックで大きく「故障」
と書いたA4版の紙を機械に貼り付けて、いきなり機械故障時の応急運転をさ
せたり、わざと配電盤のブレーカーを落として停電させて艦内を真っ暗にした
りするほかに、作業中の中核隊員に「お前は戦死!」と言っていきなり作業か
らはずして、応急作業のじゃまをして応急班全体の訓練練度を高める目的もあ
る。


私が想定員にやられたのは、応急作業が渦中に入り、時間勝負で複雑な報告を
指揮所にしている一番大事な時に背中をとんとんって叩かれて、「え、何?」
って振り返ると、想定員の応急長(応急作業の総責任者、1等海尉)に「はい、
これ君にプレゼント」ってA4版の紙をつかまされて、「へ?」って紙を見る
とマジックで大きく「頭部大火傷、右腕前腕部裂傷、左足大腿部裂傷」って書
いてある。


「これは? 応急長、これはもしかして俺のことなんですか?」って聞くと、
「そうだよ、がんばる電話員に楽しいプレゼント。お前は少し休みなさい。
それっ!看護員たち!こいつを今すぐ医務室に連れて行け! かかれっ!」
「おうっ!」


いきなり4分隊の飯炊き3人に体を押さえつけられてから空中に体を持ち上げ
られてしまい「おいっ!ちょっと待って、ちょっと待ってくれ!俺がここを離
れたらいったい誰が応急指揮所に連絡するんだ!それに離れるなら離れるで誰
か他の電話員に仕事の引継をしなきゃならん!この電話は欠陥品なんだから使
うのに癖があるんだ!おいっ!ちょっと待って!コードが首に絡まった、苦し
いぃぃ!苦しいからこの電話をはずさせろ!応急班長ぉぉぉ!後部電話員ゆー
じ士長負傷ぉぉっ!部署離れまあす!交代の電話員をお願いしまぁぁす!」


気合いが乗って指揮所に複雑なことを報告中にいきなり重傷者にされてしまい、
頭にきて抵抗していたら、想定員の応急長が「ばかもんっ!重傷の負傷者が口
を聞くかっ!お前は黙って気絶してろ!その電話も損傷だからそのまま医務室
に連れて行けっ!」って医務室に連れ込まれてしまい、「看護長!頭部大火傷、
右腕前腕部裂傷、左足大腿部裂傷の患者1名搬入です!」って言いながら医務
室の治療台の上に思いっきり投げ出されてしまう。


「いってーっ!いてーなバカヤロ、俺は貴重品なんだからもっと大切に扱えっ!
俺は取り扱い注意だ!」って言ってるうちに3人にいきなりズボンを引きずり
下ろされて、2等海曹の看護長がいきなり滅菌パットを顔にあてて視界を塞い
で頭を包帯でぐるぐる巻きにしてから三角巾で縛り上げて、太股に包帯を巻い
て、腕に包帯を巻いてから三角巾で吊られて、みるみる治療が終わり、「よし!
これでお前の治療が終わったからお前は食堂で待機してろっ!訓練終了までこ
の包帯を取るなよ!」って医務室を叩き出されてしまい、包帯巻きの頭に帽子
を乗せて、上着だけ着てパンツ1枚に靴下と革靴の格好でのこのこ食堂に行く
と、作業が終わって食堂に集まってきた応急員全員に爆笑されてしまいました。


そしたら、昔電話員をやっていた3等海曹が電話員の私の仕事を引き継いで、
何も問題なく指揮所と連絡中で、私は自分の仕事をいきなり取られたから悔し
くて、その3等海曹をずっと睨みつけていました。3等海曹は昔自分がそれを
やられているからその気持ちをわかっていて、私と目が合うたびに「にゃ」っ
と笑うので、それがまた悔しくて訓練終了までずっとその3等海曹を睨んでい
ました(^^)
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【参考6】

DE216 (Destroyer Escort)ちくご型護衛艦あやせ (既に廃艦)

主要性能要目 基準排水量:1470ton
主要寸法:長さ 93m 幅 10.8m 深さ 7.0m 喫水 3.5m
船 形:平甲板型
主 機 械:ディーゼル4基2軸
馬 力:16000PS

□主機要目: 12UEV30/40N
 2サイクルV型排気ターボ過給機付き自己逆転式トランクピストン型ディーゼル機関
 三菱製2サイクルV12気筒ディーゼル、排気ターボ過給機付き(1台に4機、計16機)
 全長5m 全幅2.5m 全高3m シリンダ径300o×ストローク400o 定格出力4250馬力
□使用燃料: 防衛庁規格NDオイル(軽油のような色をしたA重油)
□クラッチ: 流体接手(トルクコンバーター)
□減速装置: ダブルヘリカル1段減速歯車
□プロペラ: 3翼1体型×2個 直径2m75cm 回転数330rpm

艦には機関室が2つあり、各機関室にはエンジン(主機)が2台ある(計4台)
4つの主機(もとき)から出た軸出力を、クラッチと減速歯車を介して2つの
スクリューを駆動する。2台の主機と1本のプロペラシャフトの接続は流体接
ぎ手で行う(流体接ぎ手とは自動車のATミッションのクラッチのようなもので
流体コンバーターの事)同型艦にはM/Tミッションと同じ単板クラッチ使用の艦
もある

速 力:25ノット 時速46.3km/h
(最大戦速で26ノット 時速48.2km/h出るけど、そんな無謀な事をしたら
シリンダヘッドからガス漏れして、後で内燃員が泣かされるはめになる)

主要兵装:
50口径3インチ連装速射砲×1
40ミリ連装機関砲×1
アスロック×1
3連装短魚雷発射管×2

アスロックとは潜水艦攻撃用の自動追尾式短魚雷のお尻にロケットを付けた兵
器で、アスロックランチャーから遠距離にむけて発射。水面近くでロケットと
魚雷が分離した後は、パラシュートを開いて魚雷が水面に着水して、そのまま
魚雷は海底に沈んでいき、設定深度に達すると魚雷が自走を始める。魚雷は水
平に円運動を開始して少しずつ浮上して潜水艦を自動探知して、潜水艦を探知
をするとそのまま自動追尾して潜水艦を攻撃するが、潜水艦を見つけれなかっ
た場合には、安全のために自動的に海底に沈没する設定になっている。ちなみ
に訓練用短魚雷は最後には浮上する設定になっているが、こいつが何故かすぐ
に行方不明になるくせ者で、大騒ぎして全員でさがす。苦労して短魚雷を見つ
けると、艦長より特別上陸1日という名の休暇のご褒美が出る。

ちなみに、艦内でネズミを1匹捕まえた場合にも、艦長より特別上陸1日のご
褒美が出る。これをネズミ上陸と言う(魚雷とは関係ない話)


この自動追尾式魚雷による潜水艦撃沈第一号は旧日本海軍のイ号潜水艦で、ド
イツから日本に向けて航行中、アフリカ沖のインド洋で昼間に潜行して航行し
ている時に、アメリカ軍航空機による磁気探知により発見されて、投下型のソ
ノブイで場所を特定されて、航空機からの投下魚雷にやられて、浮上できなく
なって深度が下がり船体が圧壊して沈没した。(その圧壊音は教材として現在
も米海軍で使用されている)

定 員:165名
(そんなに乗ってるのなんか見たことないぞ、せいぜい135人)

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ゆーじ
2002/04/03


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