この時代をテーマにしたハリウッド映画を見ていると、なにげにぽつんと離れた所で、無言でおとなしく椅子に座っている子供がいるという場面設定があると、私の顔がつい「にゃっ」としてしまいます。そして当時の立川基地で正座させられた自分の事を懐かしく思い出します。
当時のアメリカは、まだ古き良きアメリカの時代で、アメリカ人と言えばWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)と黒人しかいないんじゃないのかって思われている時代でして、ほとんどのアメリカ人は、アメリカ人とはかくあるべきという論理感に従って、朝食と夕食は必ず家族全員で食べる、日曜日の午前中は家族揃って教会に行くのが当然で、他民族の集合体であるアメリカ国籍を持つ人達は、共通の論理感を持っていないと絶対にアメリカ人になれない、だからアメリカ国籍を持つ人達は正しいアメリカ人になるべく努力するという時代でした。(そうしなかった戦前の日系人達は迫害を受けた)今のアメリカ人は英語を喋る人よりスペイン語を喋る人の方が多いそうですから全然違う時代ですね。
当時のアメリカ人の子供にとって何よりも大事なのは、夕食の時間までに必ず家に帰ることです。どこに行くか先に親に言っておけばどこに遊びに行ってもかまわない。だが、何があろうと必ず5時までに家に帰る事。これは鉄則です。サンディ家では夕食は5時40分から始まります。だから旦那さんのサンディさんも仕事で残業になる場合は必ず事前に電話で連絡です。そうじゃない場合は、何があろうと5時30分までに家に帰って来ないと壮絶な夫婦喧嘩が始まります。
サンデイさんが夕食に遅刻した時の夫婦喧嘩を数回見ましたが、奥さんが怒り狂ってものすごい有様で、サンデイさんが仕事で残業だったっていいわけをしても「それなら何故電話しない、それは嘘だ!」って大興奮状態でののしり、ハリウッド映画のシーンそのままになります。
これは何故かと言うと、アメリカ人は家族揃って朝食と夕食を取るべきだという文化があって、そのアメリカ文化に違反して食事時間に遅刻したサンディさんのいいわけは、家長であっても絶対に認められないいいわけだからです。
日本人は、アメリカ人の肉体労働者は定時になるとさっと帰ってしまう、あいつらは怠け者だって勘違いしている人が多いですが、アメリカ人ほど働き者はいません。 私は船員という仕事柄、いろいろな国の人と仕事をしますが、船員の間では肉体労働に関して言えばアメリカ人が一番働き者と言うのが定説です。
とにかく彼らは体力に物を言わせて働きますから休憩しません。昼飯も15分位で終了させて作業再開です しまいに日本人が根を上げて、「あーしんど、もうこいつらにはつきあいきれん!こっちが壊れちまう。一服しよう! コーヒータイム! ブレイク!ブレイク!」って言って仕事を中断させない限りいつまでも動きます。でも彼らは日本式に一服取ると軽く1時間以上動かなくなっちゃう人達だから、日本人もアメリカ人もどっちもどっちなのかもしれませんけどね。
その上、彼らは残業大嫌いですから(日給制が基本なので残業代が出ない)何がなんでも定時までに仕上げようとします。でも駄目ならあっさり定時に帰っちゃいます。それは家族揃って食事をしたいからなんですね。(門限に遅れると奥さん怒るしね)
サンディさんの家で許される遅刻は2分まででした。(相手の家の時計の誤差を認めているから)そして、当時は当然腕時計なんてありませんから、安全策で4時30分に帰ってくればいいんですが、家だと静かにしてなくちゃなりませんから、退屈で外に出るとつい時間を忘れて遅刻です。
そして、とにかく長男のデービットは家に早く帰るのが嫌な奴で、いつも、あと5分遊ぼう、あと5分遊ぼうと言うので、つられてスティービーと私も割を食って、門限の5時を過ぎてしまう事が何回もあり、何回も正座1時間コースになりました。
始めて私がアメリカ人家庭のムチを見たのはその時で、3人がムチで叩かれる番でした。(罪名は門限破りの累積)次男のスティービーと3女のスーザンはまだ悪さの回数が少なかったので10回でしたが、長男のデービットそれまで10回だったムチが20回になった日でした。
夫婦の寝室に集合した子供達が順番にダブルベットにひざまずき、(JWみたいにパンツは下げません)サンディさんの奥さんが、ガムをくちゃくちゃ食べながら、自分が使っている直径2センチ位の円断面で長さ1m位の黒いウェストベルトをひゅんひゅん回してスタンバイしながら、15秒以上の間隔で子供達のお尻を叩きます。アメリカ人の子供は大げさですから、痛い痛いと大声で騒ぎまくるのですが、奥さんが騒ぐとムチを追加するぞって言うので3人とも手で口を押さえて悲鳴を上げないようにがんばるわけです。
そして、3人のムチが終わると子供達は静かに泣きまくっているのですが、サンデイさんの奥さんのムチはJWのムチのやり方と違って、ムチの後は絶対に子供を抱きしめません。これは、ムチには子供に独立心を養う目的があるからなんです。
但し、独立心の考え方が日本とは全然違って、本当に家から出ていかせる為の独立心です。子供が大きくなったら家を出ていかせる。そうして両親は親としての責任を果たして、それまで父親と母親だった夫婦がまた新婚の夫婦に戻る。見ているとそんな感じがしました。逆に20代中盤になっても家を出ていかない子供がいる家庭は、どこか親の育て方がおかしいんじゃないのかって周りから言われていました。
で、ムチと1時間の正座が終わると子供達は完全に解放です、罰が終わったらお説教も何も無しです。既に罰を受けるという仕事を果たしたわけだからもう完全におしまい。日本人の親みたいに後でぐだぐだ言いません。自分の母親のお説教と比べて実にさわやかで、見ていて気持ちがいいくらいです。なにしろ反省の態度を取らなくていいわけですから、私にとってこんなにありがたいことはありません。私は、やっぱりサンディ家のルールに従って良かったなって思いました。